あの日の誓い
「失礼いたします。絵里さんの体調に合わせて、ノンアルコールのカクテルをご用意しました。ハナさんはいつものです」

 マスターが柔らかいほほ笑みを湛えながら、手際よくカウンターにグラスを配置すると、ハナは肩を竦めてくすくす笑う。

「マスターに体調を心配されるとか、まるで絵里のお兄ちゃんみたい」

 テンションの高いハナが、オシャレなカクテルグラスを目の前に掲げた。私はマスターが出してくれたタンブラーを持ち上げ、ハナのグラスにカチンと当てて、勝手に乾杯する。

「マスターと私の健康を願っての乾杯ね」

「ちょっと、そこに私も入れてよ!」

「見るからに、健康そうなハナは大丈夫でしょ。津久野さんからの愛情をいっぱいもらって、すごくしあわせそうだし」

 いつものように笑い合う私たちを、マスターは嬉しそうな顔で眺める。

「では絵里さんと華代さんの幸せを願っての乾杯は、いかがでしょう?」

 おもむろに、ショットグラスを私たちに見せたマスター。私は間髪おかずに返事する。

「そこに、ちゃんとマスターも入れて乾杯しなきゃね!」

 カチン!

 三人のグラスがかち合ういい音が響いた。それぞれそれに口をつけて、味を堪能する。

「あ゛~! この味を知ってから、市販のカクテルが呑めなくなったんだからね。責任とってよマスター」

 ハナはジト目で、いきなりマスターに絡む。ご機嫌な様子は前回逢ったときと変わらないところをみると、津久野さんとの関係が良好な証だろう。実際私は、調査された結果でそれを見てる。

 別々の時間に退勤してから、社内の職員に見つかりにくい離れた場所でハナは津久野さんと落ち合い、食事をしたりハナの自宅に行き、愛を育んでいた。

「華代さんがコンビニでお酒を買えないように、ウチの店の味に華代さんの舌をしっかり馴染ませた次第です」

「ハナ、津久野さんがいないからって、さっきの雄叫びはないよ。まるでオッサン!」

 私はハナのテンションに合わせてカラカラ笑い、肩をバシバシ叩いた。そんな私に親友は破顔しながら、軽く体当たりする。高校時代から、ずっとこうして仲良くやってきた私たち。それはこれからも、続くと思っていたのに――。
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