あの日の誓い
***

 バーに行った3日後、午前中にスマホに着信があった。仕事中なので当然チェックできず、お昼を食べる時間帯になって、はじめて着信に気づいた。

「ハナ?」

 慌ててかけ直ししたのに、まったく繋がる様子はない。なんとなく嫌な予感が胸の中に渦巻き、午後からの仕事を同僚にお願いして、急いてハナの住むマンションに向かった。

 今まではインターフォンを押すことができなかったけれど、胸騒ぎが私の心を支配してるおかげで、なんの迷いもなく押す。

 静まり返ったハナの自宅――インターフォンの音以外、なにも聞こえなかった。それでももう一度押して、様子を窺ってみる。

「ハナ、いないのかな……」

 ぽつりと独り言を呟きながらドアノブを引いてみたら、なんの抵抗もなく扉が開いた。

「もしかして鍵、かけてなかったの?」

 その事実にゾワッとしつつ、恐るおそる中に入る。

「ハナ、いるなら返事して。ハナいないの?」

 カーテンの閉まったままのリビングを見渡してから、ベッドのある寝室に顔を出した。

「ぇ……り」

 蚊の鳴くような声が耳に届いた途端に、私の足が自動的にベッドに吸い寄せられるように素早く動いた。

「ハナ、しっかりして! ハナっ!」

 しゃがみ込みながら、額に手を当てて体温を測る。てのひらに伝わってくる熱が、びっくりするくらいに低かった。肌の様子はいつも以上に色白くて、カサつきもある。

「脱水症状を起こしてる。病院で点滴を受けたほうがいいと思うんだけど……」

 そう言った私に、ハナは力なく首を横に振った。

「え…り、私、死にたい」

「なに言ってんの! そんなのダメに決まってるじゃないっ。私がそんなの許さないんだから!」

 迷うことなくスマホで救急車を呼び、隊員が来る前に入院に必要なものをクローゼットからあさって使えそうな旅行鞄に詰めていく。

(私が躊躇せずにここに顔を出していたら、こんなことにならなかったのに――)

 後悔に襲われながらもハナの身の上の心配を最優先に、一緒に救急車に乗り込んだ。
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