あの日の誓い
***

 職場の病院に運んでもらったので私としても、常に目を光らせることができるのが一安心だった。救急車で病院に運ばれたハナの容態は、そこまで酷いものではなかったけれど、衰弱具合を診た医者の判断で、2~3日の入院が必要だと診断された。

 津久野さんには、病気のため短期間の入院と面会謝絶を、ハナのスマホのアプリから連絡させてもらった。メンタルがやられている今、彼に逢っては良くなるものが悪くなるのがわかりすぎるので、私の独断でそうしてしまった。

 丸一日点滴を受けたハナは、自宅で見たときよりも顔色が随分と良くなった。

「絵里……いろいろありがと」

 救急車で運ばれた次の日、お昼休憩でハナのいる個室に顔を出したら、ベッドで起き上がり、窓の外を眺めている姿が目に留まる。

「本当にもう、困った親友だわ。私の寿命、絶対に縮んだんだからね」

 ベッドの傍に椅子を引き寄せて腰かけるなり、ほかにも文句を言ってやる。

 ウチで「絵里なんて大嫌い」と怒鳴られ、別れてしまったあの日を考えると、このことこそが夢みたいだった。

「絵里私ね、考えたんだ」

「なにを?」

「奥さんに謝ろうと思って」

 私から視線を外し、窓の外を見ながら告げられたセリフに、かなりの衝撃を受けた。

「ちょっ、わざわざしゃしゃり出なくてもいいんじゃない? 奥さんはきっとハナの存在は知らないだろうし、そのことで慰謝料を請求されることになるかもしれないんだよ?」

 言いながらハナの肩に手をやり、自分に向けさせる。ゆっくり振り返ったハナの面持ちは、複雑な心境を表していた。

「慰謝料を請求されるよりも、奥さんの心のキズが深くなることのほうが、私としてはものすごく心苦しい」

「ハナ……」

「私ね、部長に嘘をつかれていた事実に、すっごく苦しんだの。私以外にも愛人がいたり、不仲だと聞かされていた奥さんとの仲が、実際によかったことを知って、彼にとって私は、いったいなんだったのかなって考えたときにね」

 ハナの右手が肩に置いてる私の手に触れてから、ぎゅっと握りしめる。いつもより冷たく感じるのは、きっとまだ本調子じゃないせいだろうな。

 そう思ったから、私は握りしめられているハナの手の上に、反対の手を置いてあたためてあげた。私のぬくもりが伝わって、少しでもあたたまってくれたらいいなって。

「なにも知らないということは、とても不幸なんじゃないかって思って。だってそうでしょ、奥さんを含めて私たちは、みんな部長に嘘をつかれているんだよ? 騙されたままで、しあわせになれるわけがない」

 痛いくらいに握りしめられた手に視線を落としたあと、ハナの顔を見つめる。両目からとめどなく涙を流した姿がそこにあった。
< 21 / 66 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop