あの日の誓い
所長さんから調査内容を聞いたあとで、それをまとめた報告書をいただき、思いきり落胆しながら事務所を出て、通りを歩きかけたときだった。
「岡本さん!」
私を呼び止める声に振り返る。そこにいたのは、まったく見知らぬ男性の姿で、誰だろうと頭の中で考える。年齢は確実に私よりも年下、20代前半って感じの服装がそれを表していた。
「あの俺、山下探偵事務所に勤めてる榊原って言います。これ、証拠の名刺です」
ポケットからそれを取り出し、私の目の前に掲げる。やんわりと名刺を受け取って、目の前に立ち尽くす背の高い榊原さんの顔を見上げた。
「あのなにか?」
恐るおそる話しかけると、榊原さんはどこか困った表情でぽつぽつ返答する。
「岡本さんの調査の件、俺が担当したんですけど」
「はあ?」
「あのですね、いつもなら旦那さんの浮気調査とか、彼氏彼女の浮気調査や猫探しなんかもやっていて」
「猫探し? それは大変そうですね」
「まあ、そうなんですけど。えっと……」
後頭部を掻きながら、言いにくそうにしてる榊原さん。私から言葉を促したらいいのだけれど、初対面の上に、探偵事務所の所員さんという立場のせいで、おいそれと声をかけられなかった。
「岡本さんの調査は、なんかいつも以上に気合いが入ったんです」
「えっ?」
「いつもなら不貞を働いてる相手の調査ばかりで、なんていうか、相手がいるのにどうして浮気するんだろうなって思いながら、いつも調査してるんですけど」
榊原さんは一旦ここで区切ってから、丸めていた背中を伸ばし、姿勢を正す。
「岡本さんは友達のためを思って、恋人の調査をウチに頼んだじゃないですか」
「そうですね」
凛としたまなざしでじっと見つめられて、恥ずかしくなりそうだった。
「それって、すごいと思ったんです。俺は友達のために、そこまでやれるのかなって考えさせられたというか」
「言われるほど、すごくないですよ。だって親友が不倫してたら、友達としてそれをとめなきゃいけないでしょ?」
「それって親友だからこそ、難しくないですか?」
「難しいとは思いません。大切な友達が間違った道に逸れそうになったのなら、親友として正しい道に戻さなきゃいけない。そのための調査依頼だったんです」
凝視される視線を外すように、俯きながら告げてしまった。
「尊敬します。俺は勇気が足りなくて、そこまでできない。友達に嫌われるんじゃないかと思ったら、どうしてもやれそうにないです」
どこか沈んだ口調を聞いたため、導かれるように顔をあげたら、榊原さんは私から視線を外し、違うところを見ていた。
「私、親友とはくだらないことでよく喧嘩をするし、仲直りもたくさんしているんです。お互い、思いきってぶつかることのできる間柄なんですよ」
笑ってハナとの関係を言いきった私に、榊原さんは切なげに笑うと「なにかあったら喜んで手を貸します」と言ってくれたのだった。
その場でLINEの交換をし、時々話を聞いてもらっていた経緯がある。彼のおかげで、ハナと音信不通中でもめげずにいられた。
「岡本さん!」
私を呼び止める声に振り返る。そこにいたのは、まったく見知らぬ男性の姿で、誰だろうと頭の中で考える。年齢は確実に私よりも年下、20代前半って感じの服装がそれを表していた。
「あの俺、山下探偵事務所に勤めてる榊原って言います。これ、証拠の名刺です」
ポケットからそれを取り出し、私の目の前に掲げる。やんわりと名刺を受け取って、目の前に立ち尽くす背の高い榊原さんの顔を見上げた。
「あのなにか?」
恐るおそる話しかけると、榊原さんはどこか困った表情でぽつぽつ返答する。
「岡本さんの調査の件、俺が担当したんですけど」
「はあ?」
「あのですね、いつもなら旦那さんの浮気調査とか、彼氏彼女の浮気調査や猫探しなんかもやっていて」
「猫探し? それは大変そうですね」
「まあ、そうなんですけど。えっと……」
後頭部を掻きながら、言いにくそうにしてる榊原さん。私から言葉を促したらいいのだけれど、初対面の上に、探偵事務所の所員さんという立場のせいで、おいそれと声をかけられなかった。
「岡本さんの調査は、なんかいつも以上に気合いが入ったんです」
「えっ?」
「いつもなら不貞を働いてる相手の調査ばかりで、なんていうか、相手がいるのにどうして浮気するんだろうなって思いながら、いつも調査してるんですけど」
榊原さんは一旦ここで区切ってから、丸めていた背中を伸ばし、姿勢を正す。
「岡本さんは友達のためを思って、恋人の調査をウチに頼んだじゃないですか」
「そうですね」
凛としたまなざしでじっと見つめられて、恥ずかしくなりそうだった。
「それって、すごいと思ったんです。俺は友達のために、そこまでやれるのかなって考えさせられたというか」
「言われるほど、すごくないですよ。だって親友が不倫してたら、友達としてそれをとめなきゃいけないでしょ?」
「それって親友だからこそ、難しくないですか?」
「難しいとは思いません。大切な友達が間違った道に逸れそうになったのなら、親友として正しい道に戻さなきゃいけない。そのための調査依頼だったんです」
凝視される視線を外すように、俯きながら告げてしまった。
「尊敬します。俺は勇気が足りなくて、そこまでできない。友達に嫌われるんじゃないかと思ったら、どうしてもやれそうにないです」
どこか沈んだ口調を聞いたため、導かれるように顔をあげたら、榊原さんは私から視線を外し、違うところを見ていた。
「私、親友とはくだらないことでよく喧嘩をするし、仲直りもたくさんしているんです。お互い、思いきってぶつかることのできる間柄なんですよ」
笑ってハナとの関係を言いきった私に、榊原さんは切なげに笑うと「なにかあったら喜んで手を貸します」と言ってくれたのだった。
その場でLINEの交換をし、時々話を聞いてもらっていた経緯がある。彼のおかげで、ハナと音信不通中でもめげずにいられた。