あの日の誓い
(この雰囲気にのまれないように、もっと明るく話しかけなければいけない。ハナのためにも、私が頑張らなきゃ!)

 真顔を少しだけ崩して津久野さんの奥さんにほほ笑み、自分から口火を切る。

「ご主人のことで、奥様にお知らせしたいことがあります。このまま立ち話で話す内容じゃないですから、大通りにある喫茶店に一緒に来ていただけますか?」

 あえて気を引くようなことを言い、喫茶店に赴くように促した。すると顔色を曇らせた津久野さんの奥さんが、すぐさま返答する。

「夫のことでというのは、会社でなにかよくないことをしているのでしょうか。パワハラとか……」

「詳しい話は喫茶店でします。行きましょう!」

 強引かもしれなかったけれど、津久野さんの奥さんの背中に手を添え、歩くように押し出す。それに導かれるように歩き出したのを見て、私も隣に並んで歩いた。

 そんな私たちに続くように、ハナは後ろを歩く。

「岡本さん、聞いてもいいかしら?」

「なんでしょうか?」

 前を向いたまま訊ねられた言葉に反応して、朗らかに返事をした。暗いムードにならないように、笑顔を絶やさず、口角を上げる。

「病院で私に逢ったのは、偶然じゃなかったということ?」

 言い終えてから、横目で私を眺めた津久野さんの奥さんの面持ちは、声色同様に表情も強張っていた。

「すみません、詳しくは喫茶店でお話します。そのほうがきちんと順序だてて、私としても話せると思いますので」

「……わかりました」

 私が理由を言わなかったことで、津久野さんの奥さんの心中は、さらに困惑してるだろう。

 そして私たちのやり取りを、一番に心を痛めて聞いているハナの気持ちがどうにも心配で、思わず振り返ってしまった。

 口パクで名前を呼ぶと切なげな表情を浮かべ、『大丈夫』とひとこと同じように口パクで告げる。

 その後、私たちは黙ったまま喫茶店に向かい、コーヒーを頼んでテーブル越しに対峙した。

 私の隣にハナが座り、目の前に津久野さんの奥さんが座る。窓際の席に座ったため、ほのかに明るい日差しが入ってくることによって、それぞれが暗くならずに済みそうだった。

「親友のハナから、津久野さんのことを聞いたときに激しく反対すれば、こんなことにはならなかったんです」

 ハナが謝罪する前に、自分から口を開いた。

「夫のなにを聞いたのでしょうか?」

「ご主人とハナが不倫している話です」

 端的にズバッと告げた瞬間、ハナは勢いよく立ち上がり、深く頭を下げた。目の前にいる津久野さんの奥さんは、目を見開いてその様子を眺める。唇が戦慄き、なにかを言ってるようなのに、言葉にならないらしい。
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