あの日の誓い
「大丈夫というか、怒りのままに参加するみたいな感じかも。大事な親友を傷つけられて、このままではいられないし。私も榊原さんとおんなじで、転職OKって感じです」

 ぽつりぽつりと言葉を選びながら答えたら、「いいなぁ」と呟いた榊原さん。

「俺は臆病者で、なにもできなかったから。学生時代に岡本さんのような勇気が俺にあったら、友達を失わずに済んだのにな……」

 ひどく沈んだ声で告げられたことについて、自分なりの意見を述べてみる。

「とても悲しい過去があったんですね。それでも榊原さんは人の役に立つために、前を向いてちゃんと働いてるじゃないですか。罪滅ぼしになってると思いますよ」

「そう言ってもらえると、今まで頑張った甲斐があります」

「よし、できたっ!」

 私たちの会話を遮るように、ハナが明るい声をあげた。3人そろって計画立案者に視線を飛ばすと、ハナは計画を記入した手帳を、隣にいる奥様の前にズラす。

「部長と不倫している私が計画すること自体、すっごくおこがましいですが、どうか目を通して、ダメ出ししていただけると助かります」

 軽く会釈して告げたハナに、奥様は首を横に振り、静かに答える。

「夫を懲らしめたいと言った、私の気持ちに応えてくれるだけで、すごく嬉しいです。では読みますね」

 両手で手帳を持ち上げ、瞳を素早く左右に動かし読み込む。奥様は読みながら、口元を綻ばせた。

「ねぇこの現場に、私も顔を出したいんだけど、ダメかしら?」

「それはちょっと……。この計画に奥様が加担してることが部長にバレたら、離婚の際の慰謝料に影響があるかもしれません」

「俺が現場で動画撮影しますよ。それで手を打ちませんか?」

 奥様のリスクを考えて、それぞれがナイスな意見を素早く思いつき、最適な提案をしているこの時間が、すごくいいなと思った。私もなにか言いたくなり、手をあげてみる。

「奥様、手にしてる手帳を見せていただけませんか?」

「あ、ごめんなさいね。どうぞご覧になって」

 くるりと手帳を反転させて、見えやすいように手渡してくれた。

「絵里、奥様にダメ出しもらってからにしてほしかったんだけど?」

「ごめんって。ふたりがいい意見を言ったのに、私もそれに見合うことを言いたくて。ちょっと待ってね、すぐに読むから」

 箇条書きでまとめられている計画書は、とてもいい感じにまとめられていたので、その情景が脳裏に浮かびあがる。だからそのアイディアがぱっと閃いた。

「これって目隠ししてやってみたら、これ以上にもっと津久野さんに恐怖を与えられるんじゃないかな」

「俺が旦那さんの立場になったとして、それを施されたことを想像したら、やめてくれーって喚いてしまうかもしれません。見えないってだけで、恐怖心を煽られます」

 私の隣で手帳を覗き込んでいた榊原さんが、顎に手を当てながら呟いた。

「絵里ってば、昔っからそういう悪知恵がはたらくよねぇ」

「だけど目隠しすることによって、奥様の存在を消せる効果もあるでしょ? 声を出さなければ、可能なんじゃない?」

 奥様の希望をかなえたい一心で告げた私の意見に、みんなが頷いて賛同した。
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