あの日の誓い
「絵里のそのアイディアいただき! だったら、もっとおもしろいこともできそう! 手帳返して」

 勢いよく出したハナの左手に、手帳を渡してやる。ハナは次のページを開き、ふたたび書き込みをはじめた。

「ハナの計画を遂行するにあたり、まず必要なのは車」

「それ、俺が用意します。仕事で使ってるワンボックスありますよ」

「私は体調不良を理由に、実家に帰ることにするわ。不倫してるあの人とは、もう顔を会わせたくないし」

 肩を竦めて苦笑いを浮かべる奥様を見たからこそ、私の中でふたたびアイディアが閃く。

「なるほど。そうすることで、津久野さんがハナに接触する機会が、必然的に増えますね」

 3人でそれぞれの役割を分担しつつ、必要なものを洗い出し、車を持ってるという榊原さんの愛車に乗り合わせて、現地に行くことになった。

「絵里、体調は大丈夫?」

「なに言ってんの。善は急げって言うでしょ、まったく問題ないから」

 助手席に奥様、真ん中の後部座席に私たちが乗り込んだワンボックスカー。

「ハナが指定した行先は、きちんとナビに登録してるんだし、少し寝たほうがいいって。これからうんと働くんだから、休憩も必要だよ」

「斎藤さん、私のためにも休憩してくださいね」

 話し合いの最中に、ハナが体調を崩して入院し、退院したばかりだというのを知らせていた。

「遠すぎず近すぎずの距離ですし、休むにはちょうどいい時間ですよ」

 ハンドルを握る榊原さんも気を遣う。この計画の立案者で実行者のハナを、みんなが頼りにしていた。

「ハナ、お願いだからみんなの言うことをきこうね。その代わり、現地に着いたら目一杯はたらいてもらうんだから!」

「わかったわかった。それじゃあ少しだけ横になります。すみません」

 こうして30分弱の仮眠をとったハナは、現地に到着後はいつも以上に元気になり、メンバーの中心として計画をより一層いいものにしあげるべく、シミュレーションをはじめた。

 それに合わせて、それぞれの役割分担を決め直し、改めて必要な物を書き出したので、帰り道でそれらを購入することにした。

 サレ妻と不倫相手が結託しておこなわれる計画は、3日後決行することになった。

「夫の顔を見るまでに、うんと恨みつらみをためておきますね」

 なぁんて奥様が冗談を言えるくらいに、ハナと仲良くなったのは、この計画のおかげだろうな。

 ほほ笑みあうふたりの後ろ姿を何とはなしに眺めていると、肩を軽く叩かれた。振り返ると榊原さんがいて、私が見ていた視線の先を眺める。

「普通はあんなふうに、仲良くなるなんて絶対にありえません。岡本さんが親友を思う気持ちが伝わったからでしょうね」

「そんなことないですって。あれはハナが一生懸命に奥様のことを考えて、より入念な計画をたてたのが伝わったから。それだけですよ」

 なんだか照れ臭くなってしまい、顔を俯かせる。

「岡本さん、当日頑張りましょうね」

「はい、榊原さんの力仕事の補助をさせていただきます。遠慮なく使ってやってください!」

 こうして私たちは一致団結して、当日の朝を迎えた――。
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