あの日の誓い
***
3日後の金曜日、妻が実家に帰って自宅に不在なのをいいことに、津久野は愛人の華代に連絡を取り、ちゃっかりお泊りすることを決めていた。
退院したばかりの華代を祝うためのケーキをきちんと持参して、愛人の住むマンションに向かう。久しぶりの逢瀬に胸を高鳴らせるおかげで、足取りはかなり軽かった。
マンション前に駐車されている黒のワンボックスカーの横を通り過ぎ、ふと振り返る。
いつもはそんな場所に路駐されることのない車道に、大きな車が停まっていることに不快感を覚えたが、車には誰も乗っておらず、駐停車を知らせるためのハザードランプが点灯していたので、すぐに戻って来るだろうと考え、足早に通り過ぎた。
エレベーターに乗り、8階を押して華代の住むフロアまで一気に昇る。鏡に映る自分の髪型を気にして整え、さわやかなほほ笑みを唇に湛えた。
数秒後、8階に到着。向かって右側の扉まで小走りで駆け寄り、インターフォンを押す。すぐに顔を覗かせた愛しい人を、津久野は迷うことなく抱きしめた。
「華代、ずっと逢いたかった。連絡もとれなくなって、本当に心配していたんだぞ」
胸の中にいる華代は、少しだけ困った様相でほほ笑む。
「ごめんなさい。見苦しい姿を部長に見せたくなかったの」
元気そうなその姿を目の当たりにしたことで、津久野は安堵しながら華代の髪を撫でる。
「見苦しいなんて、そんなの気にすることないのに。だけど看護師の岡本さんが駆けつけてくれて、すごく安心したね」
髪を撫でる動きに抵抗する感じで、華代は頭を振りながら津久野の体を両腕で押し、すかさず数歩退いた。
「……どうした?」
今まで華代が津久野の行動を拒否したことがなかったせいで、髪を撫でていた手をそのままに訊ねる。まるで空中に浮かんだ手が、華代を呼び寄せているようにも見えるそれに、愛人は優しくほほ笑んだ。
「部長に早く、中に入ってほしかっただけ。だって、ふたりきりになりたかったし」
「そうか、そうだよな。ふたりきりになるのは、久しぶりだから」
「ん……。今夜はずっと一緒にいられるんだよね?」
問いかけられた言葉を聞きながら、津久野は扉を閉めて玄関に入り込む。そしてキッチリ鍵をかけた。
「ああ。妻の体調が悪くて、実家に帰ってる。土日とも一緒にいられるよ」
「でも日曜くらい、奥さんのところに顔を出したほうがいいんじゃない?」
津久野に背を向け、リビングに入っていく華代。どんな顔でそれを言ったのかわからないせいで、津久野は思わずその背中に抱き着く。
「華代がそんな心配をしなくてもいい。大丈夫、かなり具合が悪いから、逢いに来ないでくれって言われてるんだ」
「そうなんだ、へぇ」
「これ、華代が好きなお菓子屋さんのケーキ。大好きなミルフィーユを買ったよ」
背後から、ケーキの入った箱を差し出した。華代はそれを受け取り、緩んだ津久野の両腕から抜け出す。
「部長がいつもより遅かったのは、コレを買ったせいだったんだ。紅茶淹れるね」
キッチンに向かう華代から離れ、津久野は背広を脱いでソファの背にそれをかけてから、慣れた様子で腰かけた。
3日後の金曜日、妻が実家に帰って自宅に不在なのをいいことに、津久野は愛人の華代に連絡を取り、ちゃっかりお泊りすることを決めていた。
退院したばかりの華代を祝うためのケーキをきちんと持参して、愛人の住むマンションに向かう。久しぶりの逢瀬に胸を高鳴らせるおかげで、足取りはかなり軽かった。
マンション前に駐車されている黒のワンボックスカーの横を通り過ぎ、ふと振り返る。
いつもはそんな場所に路駐されることのない車道に、大きな車が停まっていることに不快感を覚えたが、車には誰も乗っておらず、駐停車を知らせるためのハザードランプが点灯していたので、すぐに戻って来るだろうと考え、足早に通り過ぎた。
エレベーターに乗り、8階を押して華代の住むフロアまで一気に昇る。鏡に映る自分の髪型を気にして整え、さわやかなほほ笑みを唇に湛えた。
数秒後、8階に到着。向かって右側の扉まで小走りで駆け寄り、インターフォンを押す。すぐに顔を覗かせた愛しい人を、津久野は迷うことなく抱きしめた。
「華代、ずっと逢いたかった。連絡もとれなくなって、本当に心配していたんだぞ」
胸の中にいる華代は、少しだけ困った様相でほほ笑む。
「ごめんなさい。見苦しい姿を部長に見せたくなかったの」
元気そうなその姿を目の当たりにしたことで、津久野は安堵しながら華代の髪を撫でる。
「見苦しいなんて、そんなの気にすることないのに。だけど看護師の岡本さんが駆けつけてくれて、すごく安心したね」
髪を撫でる動きに抵抗する感じで、華代は頭を振りながら津久野の体を両腕で押し、すかさず数歩退いた。
「……どうした?」
今まで華代が津久野の行動を拒否したことがなかったせいで、髪を撫でていた手をそのままに訊ねる。まるで空中に浮かんだ手が、華代を呼び寄せているようにも見えるそれに、愛人は優しくほほ笑んだ。
「部長に早く、中に入ってほしかっただけ。だって、ふたりきりになりたかったし」
「そうか、そうだよな。ふたりきりになるのは、久しぶりだから」
「ん……。今夜はずっと一緒にいられるんだよね?」
問いかけられた言葉を聞きながら、津久野は扉を閉めて玄関に入り込む。そしてキッチリ鍵をかけた。
「ああ。妻の体調が悪くて、実家に帰ってる。土日とも一緒にいられるよ」
「でも日曜くらい、奥さんのところに顔を出したほうがいいんじゃない?」
津久野に背を向け、リビングに入っていく華代。どんな顔でそれを言ったのかわからないせいで、津久野は思わずその背中に抱き着く。
「華代がそんな心配をしなくてもいい。大丈夫、かなり具合が悪いから、逢いに来ないでくれって言われてるんだ」
「そうなんだ、へぇ」
「これ、華代が好きなお菓子屋さんのケーキ。大好きなミルフィーユを買ったよ」
背後から、ケーキの入った箱を差し出した。華代はそれを受け取り、緩んだ津久野の両腕から抜け出す。
「部長がいつもより遅かったのは、コレを買ったせいだったんだ。紅茶淹れるね」
キッチンに向かう華代から離れ、津久野は背広を脱いでソファの背にそれをかけてから、慣れた様子で腰かけた。