あの日の誓い
キッチンにて手際よくお茶の準備を終えた華代が、楽しげな足取りでソファに戻ってくる。
「部長のせいで、紅茶が濃く出ちゃったんだからね。見てよ、これ!」
足取りは軽やかだったのに、噛みつくような言葉を津久野に吐き捨てた。
ケーキと一緒にローテーブルに置かれたティーカップの中身は、華代が言うようにかなり色濃く出た紅茶が注がれる。
「悪かったって。罰として、俺が全部飲み干すよ」
「部長のそういうところ、大好き♡」
華代は喜んで、紅茶の入ったポットを見せる。2人分の紅茶がティーカップに注がれているのに、ポットの中身はかなり残った状態だった。そのことに津久野はゲンナリしたものの、華代の気分を害さないように、ほほえみを絶やさず笑いかける。
「部長が美味しく飲めるように、足し湯してあげるね」
「お気遣い、ありがたくちょうだいする」
みずからティーカップを手にした津久野は、先に紅茶を飲み干した。それを見た華代は、宣言どおりに足し湯してから、空になった津久野のティーカップに紅茶をドバドバ注ぎ入れる。
「私、すっごく嬉しい。こうして部長と一緒にいられるのが」
「華代の体調がよくなって、本当に良かったな」
「ミルフィーユ食べさせてあげるね。はい、あ~ん」
華代は一口分にフォークで切り分けたミルフィーユを、恋人の口元に運ぶ。津久野は嬉しそうにそれを頬張り、ふたたび紅茶を飲んだ。
「私もミルフィーユ食べようっと♪」
注いだ紅茶に手をつけず、自分用に取り分けたミルフィーユに、華代は舌鼓を打った。その様子を横目で見ていた津久野は、華代の腰を抱き寄せる。
「俺は早く華代を食べたいんだけど?」
「食べたければ、紅茶を全部飲んでからだよ」
「わかってる。だけど足し湯していても、結構苦みを感じるんだな」
仕方なく注がれた紅茶を半分だけ飲み、ボソッと文句言った津久野に、華代は隣で盛大なため息をついた。
「当たり前でしょ。ここで私の動きをとめた、誰かさんのせいなんですからね」
華代は美味しそうに、ミルフィーユをぱくぱく食べる。腰を抱き寄せて密着している津久野に流されそうもないのがわかったので、目の前に置かれたものにやっと手をつけた。
ミルフィーユを完食した華代は、津久野のティーカップが空になるタイミングで、ポットの中身を注いだ。
「部長、どうしたの? 手が止まってるよ?」
「なんか一瞬、くらっとした気がしたんだ。おかしいな……」
「めまいみたいな感じ?」
心配そうに顔を覗き込む華代を心配させないように、津久野は作り笑いを浮かべた。
「大丈夫。華代がいない間、いっぱい仕事をこなしたせいかもしれないな」
「部長が仕事をこなすって、それは違うでしょ。めんどくさそうな案件を、部下に押しつけるだけだもんね」
「華代?」
「そしてうまいことやりきったものを、自分の手柄にしてるっていう。ズルい仕事のやり方して、今の地位を得たんでしょ?」
津久野は驚き、隣にいる華代を見たら、なぜか霞んでよく見えない状態になっていて、めまいがさらに強くなっていく。
「華代おまえ、俺に薬を使ったの、か?」
「使われるようなことをしたのは、部長じゃない」
いつも津久野が聞いていた甘えた声じゃなく、ひんやりと冷めた口ぶりの華代が信じられなくて、目を見開きながら問いかける。
「俺がな、にをした……っていうんだ?」
津久野の視野が狭まると同時に、目の前に大きなシャッターがおりた感じでまぶたが閉じられ、大柄な体がソファの上に横たわった。
「第一ミッション完了だよ、絵里」
路駐している黒のワンボックスから、津久野が来たことを知らせた絵里のスマホと通話状態を維持していた華代のスマホ。ポケットに忍ばせていたそれを取り出し、現状を告げた。
『了解! 荷物を運び出す準備に取りかかるね』
絵里は端的に返答し、すぐさま通話を切った。
「部長、美味しいミルフィーユありがとね。お礼に、私からのプレゼント受け取ってよ」
華代は津久野にまたがり、触れるだけのキスをしてすぐに離れた。
「もう前のように、ドキドキしないや……」
自分の中にある嫌悪感を確かめた華代は、絵里たちを向かい入れるべく、鍵を開けに玄関に向かった。
「部長のせいで、紅茶が濃く出ちゃったんだからね。見てよ、これ!」
足取りは軽やかだったのに、噛みつくような言葉を津久野に吐き捨てた。
ケーキと一緒にローテーブルに置かれたティーカップの中身は、華代が言うようにかなり色濃く出た紅茶が注がれる。
「悪かったって。罰として、俺が全部飲み干すよ」
「部長のそういうところ、大好き♡」
華代は喜んで、紅茶の入ったポットを見せる。2人分の紅茶がティーカップに注がれているのに、ポットの中身はかなり残った状態だった。そのことに津久野はゲンナリしたものの、華代の気分を害さないように、ほほえみを絶やさず笑いかける。
「部長が美味しく飲めるように、足し湯してあげるね」
「お気遣い、ありがたくちょうだいする」
みずからティーカップを手にした津久野は、先に紅茶を飲み干した。それを見た華代は、宣言どおりに足し湯してから、空になった津久野のティーカップに紅茶をドバドバ注ぎ入れる。
「私、すっごく嬉しい。こうして部長と一緒にいられるのが」
「華代の体調がよくなって、本当に良かったな」
「ミルフィーユ食べさせてあげるね。はい、あ~ん」
華代は一口分にフォークで切り分けたミルフィーユを、恋人の口元に運ぶ。津久野は嬉しそうにそれを頬張り、ふたたび紅茶を飲んだ。
「私もミルフィーユ食べようっと♪」
注いだ紅茶に手をつけず、自分用に取り分けたミルフィーユに、華代は舌鼓を打った。その様子を横目で見ていた津久野は、華代の腰を抱き寄せる。
「俺は早く華代を食べたいんだけど?」
「食べたければ、紅茶を全部飲んでからだよ」
「わかってる。だけど足し湯していても、結構苦みを感じるんだな」
仕方なく注がれた紅茶を半分だけ飲み、ボソッと文句言った津久野に、華代は隣で盛大なため息をついた。
「当たり前でしょ。ここで私の動きをとめた、誰かさんのせいなんですからね」
華代は美味しそうに、ミルフィーユをぱくぱく食べる。腰を抱き寄せて密着している津久野に流されそうもないのがわかったので、目の前に置かれたものにやっと手をつけた。
ミルフィーユを完食した華代は、津久野のティーカップが空になるタイミングで、ポットの中身を注いだ。
「部長、どうしたの? 手が止まってるよ?」
「なんか一瞬、くらっとした気がしたんだ。おかしいな……」
「めまいみたいな感じ?」
心配そうに顔を覗き込む華代を心配させないように、津久野は作り笑いを浮かべた。
「大丈夫。華代がいない間、いっぱい仕事をこなしたせいかもしれないな」
「部長が仕事をこなすって、それは違うでしょ。めんどくさそうな案件を、部下に押しつけるだけだもんね」
「華代?」
「そしてうまいことやりきったものを、自分の手柄にしてるっていう。ズルい仕事のやり方して、今の地位を得たんでしょ?」
津久野は驚き、隣にいる華代を見たら、なぜか霞んでよく見えない状態になっていて、めまいがさらに強くなっていく。
「華代おまえ、俺に薬を使ったの、か?」
「使われるようなことをしたのは、部長じゃない」
いつも津久野が聞いていた甘えた声じゃなく、ひんやりと冷めた口ぶりの華代が信じられなくて、目を見開きながら問いかける。
「俺がな、にをした……っていうんだ?」
津久野の視野が狭まると同時に、目の前に大きなシャッターがおりた感じでまぶたが閉じられ、大柄な体がソファの上に横たわった。
「第一ミッション完了だよ、絵里」
路駐している黒のワンボックスから、津久野が来たことを知らせた絵里のスマホと通話状態を維持していた華代のスマホ。ポケットに忍ばせていたそれを取り出し、現状を告げた。
『了解! 荷物を運び出す準備に取りかかるね』
絵里は端的に返答し、すぐさま通話を切った。
「部長、美味しいミルフィーユありがとね。お礼に、私からのプレゼント受け取ってよ」
華代は津久野にまたがり、触れるだけのキスをしてすぐに離れた。
「もう前のように、ドキドキしないや……」
自分の中にある嫌悪感を確かめた華代は、絵里たちを向かい入れるべく、鍵を開けに玄関に向かった。