あの日の誓い
***

 榊原さんとこなす仕事が多々ある関係で、打ち合わせをしている内に、名前で互いを呼び合えるくらいに仲良くなった。

「絵里さん、大丈夫でしたか? さっきはターゲットが車の傍で立ち止まった瞬間、心臓がとまりそうになりました」

 人ひとりが入りそうな大きなキャリーケースを引く彼と一緒に、エレベーターに向かう。

「ビックリしたよね。気づかれたかと思った」

「マンションの裏に車を隠すことも考えたんですけど、意外と遠回りになって時間をロスする可能性を考えたら、あそこがベスポジだったんですよ」

「航希くん、私が先にエレベーターに乗るわ。なにも持ってないんだし」

 テキパキ足を進ませて榊原くんの前を歩き、エレベーターのボタンを押して扉を開けた。そしてさっさと乗り込んで、開くボタンを押し続ける。

「ありがとうございます、絵里さん」

 こうしてふたりで、ハナの待つ自宅にお邪魔した。

「すごいなぁ。ホントにこんな、大きなキャリーケースがあるんだ」

 私たちを出迎えたハナの第一声。私もこれを見たとき、同じことを思ったので、間違いなく類友だ。

「大学の知り合いが、忘年会のマジックで使ったのを思い出したんです。しかもこれ、くれたんですよ。場所をとるからいらないって」

 榊原くんはキャリーケースを持ち上げ、リビングに移動した。あとに続いた私の目に、ソファで眠りこける津久野さんの姿が映る。

「ハナが津久野さんに襲われるんじゃないかと思って、すっごくヒヤヒヤしたよ」

 ずっとスマホを通話中にしていたから、ここでのふたりの行動は耳で判断するしかなかった。

「でも大丈夫だったでしょ。嫌いっていう感情が出ないようにするのに、かなり苦労した」

「斎藤さんがターゲットに、薬入りの紅茶を無理強いせずにうまいこと飲ませたのには、すごいって思いました」

 榊原くんがしゃべりながら大きなキャリーケースを開けてる間に、私はソファに横たわっている津久野さんの両腕と両足に、結束バンドを取り付けた。それを終えてから、目隠しとしてアイマスクを手際よくつける。

「ハナはテーブルの上を片付けちゃっていいよ。証拠隠滅!」

「はーい、証拠隠滅いたします!」

 私のしていることを眺めていたハナに、仕事を与えた。

「それが終わったら、奥様に連絡よろ! これから出発するからって。航希くん、予定時間は大丈夫?」

 津久野さんを持ち上げて、キャリーケースの中に梱包をしかけた彼に、時間を訊ねる。

「斎藤さんがターゲットにたくさん紅茶を飲ませたおかげで、早く寝入ったでしょ? 10分弱時間が余ってる」

「よかった。慌てて作業すると、どこかでミスをする恐れがあるから。梱包手伝うよ」

 こうして、二手に分かれて作業をした。

「ハナは昨日、奥様と同伴で会社に行ったんでしょ? どうだった?」

 キャリーケースの中に津久野さんの体をうまく入れるために、榊原くんが彼の背中を丸めたのを見て、私は下半身の関節を曲げながら訊ねた。

「事前にアポをとってたから、社長と人事が話を聞いてくれたよ」

「私も同伴したかったのに、今日の休みをもぎとる関係で、休めなかったもんなぁ。うまく話をすることはできた?」

「もちろん! 絵里が自腹を切って探偵事務所に調査してくれた資料が、すっごく役に立ったんだから」

 弾んだ声をあげたハナが、タオルで手を拭いながら、傍にやって来る。手にはスマホが握られていて、奥様に連絡を入れてるように見受けられた。
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