あの日の誓い
***
ひんやりした空気を肌に感じて、重たい瞼を開けても、なにかで覆われているらしく、真っ暗なままだった。
(華代に薬を盛られた挙句に眠ってから、どれくらい時間が経ったのだろうか。そしてこの現状は――)
目隠しされているだけじゃない。チェーン状のなにかで、太い柱に縛りつけられているのが、体を揺らしたことでチェーンの音が耳に入り、それに拘束されているのを認識することができた。
静かにしていると耳に聞こえる、木々のざわめきで、外にいるのがわかったのだが、太い柱じゃなくて、太い木に括りつけられているのではないだろうか。
「華代、いるんだろう? こんなふざけた真似をして、なにを考えてるんだっ!」
怒気を込めた声で叫んでみたが、なにも返ってこない。もしかして、華代本人はいないんじゃ――。
「おいおい、冗談じゃないぞ……」
街の喧騒がまったく感じられない場所――たぶんこれは、どこかの森の中だろう。この状態で放置されたら、間違いなく息絶えるのが嫌でもわかる。
「華代、こんな馬鹿げたことして、いいと思ってるのか? いい加減にしろ!」
俺の声だけ辺りに延々と響き渡るだけで、なにも返答のない状況に、背筋がゾッとした。
「誰かっ、誰かいませんか! 助けてくださいっ、お願いします!」
声が枯れるまで大声をあげた。運良く誰かこの森の傍を通ってくれないかという願いを込めながら、とにかく叫び続ける。
(助けを求める以外の方法は、なにかないものか――)
唇を引き結び、俯きながら考えた瞬間、首筋になにかが一瞬だけ触れた。
「ヒッ!」
冷たさを感じるなにか――それから逃げたくても逃げられないので、できるだけ触れられないように、頭ごと首を横に逸らした。
「ふふっ。部長ってば、必死ですね」
耳元に囁かれる声で、誰なのかすぐに気づく。自分をこんな目に遭わせた相手だというのに、縋りつかずにはいられない。この機会を逃したら、さっき脳裏に描いた悲惨な結末に、間違いなくつながってしまう。
「華代、ここにいたのか? どうしてこんなことをしでかしたんだ。かわいいおまえを、俺は愛しているというのに」
怒りを無理やり抑え込み、猫撫で声で華代に話しかける俺に、隣でくすくす笑う。
「部長の愛は、何人の女性に向けられているんでしょうね?」
華代はどこか楽しげに告げると、ガサガサという音とともに気配が消え去った。
「待て! 俺が愛しているのはおまえだけだ、信じてくれ!」
「津久野さん、真実を告げてください。でなければ私は貴方を、どうにかしてしまうかもしれません」
顔の正面から、聞き覚えのある声がした。
「その声は……岡本さんだね? 華代と一緒に、どうしてこんなことをしたんだ?」
「貴方に質問する権利はありません。私たちの問いに、真実を答えるのみ。ただそれだけです。この状況、わかっているでしょう?」
ひんやりと冷めた口ぶりで告げると、草を踏みしめる音と同時に、岡本さんの気配も消えてしまった。
「きっ君たちの問いかけにきちんと答えたら、解放してくれるのだろうかって、俺は質問しちゃいけないんだったな……」
ふたりの気配が消えたことに焦り、思わず訊ねてしまった言葉を飲み込む。
「もちろん解放しますよ。ですが真実を答えなければ、貴方はここで朽ちていくだけです」
先ほどよりも遠いところから、岡本さんの声がした。声の聞こえるところに顔を向けながら口角を上げ、愛想よく笑いかける。
「どんなことでも答えるよ、もちろん真実をね――」
(そんなくだらないことを聞き出すために、わざわざ俺を眠らせて、こんな場所に拉致するなんて、本当に馬鹿げてるとしか言えないな)
ひんやりした空気を肌に感じて、重たい瞼を開けても、なにかで覆われているらしく、真っ暗なままだった。
(華代に薬を盛られた挙句に眠ってから、どれくらい時間が経ったのだろうか。そしてこの現状は――)
目隠しされているだけじゃない。チェーン状のなにかで、太い柱に縛りつけられているのが、体を揺らしたことでチェーンの音が耳に入り、それに拘束されているのを認識することができた。
静かにしていると耳に聞こえる、木々のざわめきで、外にいるのがわかったのだが、太い柱じゃなくて、太い木に括りつけられているのではないだろうか。
「華代、いるんだろう? こんなふざけた真似をして、なにを考えてるんだっ!」
怒気を込めた声で叫んでみたが、なにも返ってこない。もしかして、華代本人はいないんじゃ――。
「おいおい、冗談じゃないぞ……」
街の喧騒がまったく感じられない場所――たぶんこれは、どこかの森の中だろう。この状態で放置されたら、間違いなく息絶えるのが嫌でもわかる。
「華代、こんな馬鹿げたことして、いいと思ってるのか? いい加減にしろ!」
俺の声だけ辺りに延々と響き渡るだけで、なにも返答のない状況に、背筋がゾッとした。
「誰かっ、誰かいませんか! 助けてくださいっ、お願いします!」
声が枯れるまで大声をあげた。運良く誰かこの森の傍を通ってくれないかという願いを込めながら、とにかく叫び続ける。
(助けを求める以外の方法は、なにかないものか――)
唇を引き結び、俯きながら考えた瞬間、首筋になにかが一瞬だけ触れた。
「ヒッ!」
冷たさを感じるなにか――それから逃げたくても逃げられないので、できるだけ触れられないように、頭ごと首を横に逸らした。
「ふふっ。部長ってば、必死ですね」
耳元に囁かれる声で、誰なのかすぐに気づく。自分をこんな目に遭わせた相手だというのに、縋りつかずにはいられない。この機会を逃したら、さっき脳裏に描いた悲惨な結末に、間違いなくつながってしまう。
「華代、ここにいたのか? どうしてこんなことをしでかしたんだ。かわいいおまえを、俺は愛しているというのに」
怒りを無理やり抑え込み、猫撫で声で華代に話しかける俺に、隣でくすくす笑う。
「部長の愛は、何人の女性に向けられているんでしょうね?」
華代はどこか楽しげに告げると、ガサガサという音とともに気配が消え去った。
「待て! 俺が愛しているのはおまえだけだ、信じてくれ!」
「津久野さん、真実を告げてください。でなければ私は貴方を、どうにかしてしまうかもしれません」
顔の正面から、聞き覚えのある声がした。
「その声は……岡本さんだね? 華代と一緒に、どうしてこんなことをしたんだ?」
「貴方に質問する権利はありません。私たちの問いに、真実を答えるのみ。ただそれだけです。この状況、わかっているでしょう?」
ひんやりと冷めた口ぶりで告げると、草を踏みしめる音と同時に、岡本さんの気配も消えてしまった。
「きっ君たちの問いかけにきちんと答えたら、解放してくれるのだろうかって、俺は質問しちゃいけないんだったな……」
ふたりの気配が消えたことに焦り、思わず訊ねてしまった言葉を飲み込む。
「もちろん解放しますよ。ですが真実を答えなければ、貴方はここで朽ちていくだけです」
先ほどよりも遠いところから、岡本さんの声がした。声の聞こえるところに顔を向けながら口角を上げ、愛想よく笑いかける。
「どんなことでも答えるよ、もちろん真実をね――」
(そんなくだらないことを聞き出すために、わざわざ俺を眠らせて、こんな場所に拉致するなんて、本当に馬鹿げてるとしか言えないな)