あの日の誓い
 蔑みを含んだ感情を加算して、さらにほほ笑んだ俺の耳に、華代の声が聞こえる。

「奥様とは、家庭内別居状態だって教えてくれたけど、それはホントなの?」

「ああ、本当さ。妻とは別れて、華代と結婚しようと考えてる。だからこの間一緒に、式場巡りをしたじゃないか」

 訊ねられた言葉に、軽快な口調で即答してやった。

「だったら、どうして別れようとしている奥様が、不妊治療に有名な産婦人科の病院に通っているのかなぁ?」

「は? 産婦人科、の病院んっ?」

 平静を装うとした途端に声帯が緊張して、余計に声が震えてしまった。

「ハナの不倫に納得のいかなかった私は、探偵事務所にお金を払って、津久野さんの身辺を調査を、徹底的にしてもらったんです」

「つっ!?」

 探偵事務所に身辺の調査というセリフで動揺したため、ほほ笑みがひきつり笑いに変わる。

「部長、奥様が妊娠したら、私との結婚をどうするつもりだったんですか?」

「妻が妊娠……した、ら、え~」

「津久野さんってば、さっきのように、すぐに答えてくださいよー」

 岡本さんに回答を急かされても、すぐに答えが出るわけがなかった。

「待ってくれ。妻が妊娠することを考えていなくて」

「部長は奥様とヤることヤってるんでしょ? 中出ししなきゃ、妊娠しないわけだし」

「そそ、それは、そうなんだ、が……っ」

 重たくなった口を、やっと開く。さっきまで明るい声で答えていたのに、今はその余裕がまったくなくて、いつもよりしどろもどろになる。

「奥様ともよろしくヤって、私と結婚を視野に入れてるからってナマでヤって、その結果2人同時に妊娠したら、どうするつもりだったんですかぁ?」

 そのときだけの気持ちよさだけを追求した、身勝手な己の行動を言葉にされたため、もう笑みすら浮かべることはできない。

「くっ! そんな偶然は、ないかと思った、んだ」

「津久野さんなに言ってんの。ゴムつけないでセックスしたら、妊娠する可能性があることくらい、性教育を受けた子どもでも知ってますよ」

「しかも同じコトを、支店にいる若い社員にもしてるんでしょ?」

 岡本さんに続き、若い女子社員との不倫を華代に口にされて、さらに混乱を極めた。

「それはない、誓う! アイツに脅されて、そういう関係を無理やり続けているだけなんだ!」

 声を大にして答えた。これが真実だと華代たちに知らしめるために、さらに言葉を続ける。

「あの女は酔っぱらったフリして俺を自宅のマンションに送らせて、お礼をしたいからって無理やり自宅に引き込み、俺のことを押し倒したんだ」

「部長が押し倒したんじゃなく?」

「違う、俺は押し倒してなんていない。だってあの女は好みのタイプから外れていたし、その――」

 ここまで言ってから、墓穴を掘ったことに気づいてしまった。真実を告げて身の潔白を証明しようと思ったのに、それをしようとしたら、別の真実を告げなければいけなくなってしまった。
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