あの日の誓い
口ごもった俺に「津久野さん、どうしたんですか?」という、岡本さんから訊ねる声がかけられた。
「やっ……あ、その……。え~っと」
「部長大丈夫ですかぁ? お茶でも飲みます? 額に汗がいっぱい滲んでますよ」
「お茶……。薬を仕込んだりしていないだろうな?」
自分がされたことを思いきって指摘したというのに、華代はあっけらかんとした口調で答える。
「するわけないじゃないですか。そんなことをしたら、話が聞けなくなるんだし。とりあえず口の中をしっかり潤して、喋れるようにしてあげますね」
遠くから、こちらに向かって近づく足音。目の前に人の気配を感じて顔をあげたら、唇になにかを押しつけられた。
「ストローからお茶を飲んでください」
「あ、ああ。わかった」
唇でストローをうまく挟み、干上がった口内を潤す勢いでお茶を飲み込む。生ぬるかったが久しぶりの水分で、捕らわれの身ではあったものの、人心地につくことができた。
「支店にいる若い女子社員との関係、ちゃんと教えてください」
俺がお茶を飲みきったのを見、華代がふたたび問いかける。
「女の教育係をしていた既婚女性とデキているのをバラすって、押し倒されたときに脅されたんだ」
「ほかにも不倫していたってこと? しかもダブル不倫じゃない、最悪……」
ショックを受けた華代の震える声が、俺の耳に届いた。それと一緒に、離れたところからも、なにかの物音が聞こえたせいで、どうにも岡本さんひとりがいる感じに聞こえなかった。
「おい、ここにいるのは、華代と岡本さんだけじゃないのか? ほかに誰がいる?」
「私たちふたりだけだよ。部長に素直に吐いてもらうために、絵里に荷物を整理してもらってるだけ」
「そうそう。さっき津久野さんの首に、なにかが触れたでしょ?」
岡本さんが近づきながら問いかけたことで、遠くから聞こえていた音もやむ。
「触れられた感触は、確かにあった」
「この音を聞いて」
そう言われたから耳を澄ませたのだが、そんなことをしなくてもいいくらいに、嫌な羽音が聞こえてしまった。
「蜂……がいるのか?」
「部長、前に蜂に刺されたことがあったのを、私に教えてくれたでしょ。もう一度刺されたらどうなるか、ねぇ絵里」
「さっき首筋に、女王バチのフェロモンを塗りました。私の持っているスズメバチが、確実に密着するようにしたんです」
「ついでに額にも、フェロモンを塗っちゃおうよ」
「なに言ってんだ。俺はちゃんと答えてるっていうのに、蜂なんて物騒なものを使って、なにを考えてる?」
悲鳴に近い俺の声が、妙にこだまして響く。目の前にいるふたりはなにも答えずに、俺の額にふたりぶんの指が同時に押しつけられた。
「ぎゃっ!」
首を横に振りまくって、押しつけられた指を外したが、フェロモンを思いきりつけられてしまった。
「津久野さん、質問にちゃんと答えてるからって、なにもされないと思ってる貴方の神経が信じられません。私の大事な親友を……誰かを平然と傷つけているというのに、罰が与えられないと考えてる時点で終わってます」
言い終える直前に、左頬に指が痛いくらいに突き立てられた。
「バツ、だと? こんなの罰じゃない、虐待じゃないか」
「だったら部長のしているコトは、いったいなんですかぁ? 言ってみてくださいよ」
今度は右頬に指が食い込む。外したくても外れないくらいに突かれているせいで、顔が動かせなかった。
「やっ……あ、その……。え~っと」
「部長大丈夫ですかぁ? お茶でも飲みます? 額に汗がいっぱい滲んでますよ」
「お茶……。薬を仕込んだりしていないだろうな?」
自分がされたことを思いきって指摘したというのに、華代はあっけらかんとした口調で答える。
「するわけないじゃないですか。そんなことをしたら、話が聞けなくなるんだし。とりあえず口の中をしっかり潤して、喋れるようにしてあげますね」
遠くから、こちらに向かって近づく足音。目の前に人の気配を感じて顔をあげたら、唇になにかを押しつけられた。
「ストローからお茶を飲んでください」
「あ、ああ。わかった」
唇でストローをうまく挟み、干上がった口内を潤す勢いでお茶を飲み込む。生ぬるかったが久しぶりの水分で、捕らわれの身ではあったものの、人心地につくことができた。
「支店にいる若い女子社員との関係、ちゃんと教えてください」
俺がお茶を飲みきったのを見、華代がふたたび問いかける。
「女の教育係をしていた既婚女性とデキているのをバラすって、押し倒されたときに脅されたんだ」
「ほかにも不倫していたってこと? しかもダブル不倫じゃない、最悪……」
ショックを受けた華代の震える声が、俺の耳に届いた。それと一緒に、離れたところからも、なにかの物音が聞こえたせいで、どうにも岡本さんひとりがいる感じに聞こえなかった。
「おい、ここにいるのは、華代と岡本さんだけじゃないのか? ほかに誰がいる?」
「私たちふたりだけだよ。部長に素直に吐いてもらうために、絵里に荷物を整理してもらってるだけ」
「そうそう。さっき津久野さんの首に、なにかが触れたでしょ?」
岡本さんが近づきながら問いかけたことで、遠くから聞こえていた音もやむ。
「触れられた感触は、確かにあった」
「この音を聞いて」
そう言われたから耳を澄ませたのだが、そんなことをしなくてもいいくらいに、嫌な羽音が聞こえてしまった。
「蜂……がいるのか?」
「部長、前に蜂に刺されたことがあったのを、私に教えてくれたでしょ。もう一度刺されたらどうなるか、ねぇ絵里」
「さっき首筋に、女王バチのフェロモンを塗りました。私の持っているスズメバチが、確実に密着するようにしたんです」
「ついでに額にも、フェロモンを塗っちゃおうよ」
「なに言ってんだ。俺はちゃんと答えてるっていうのに、蜂なんて物騒なものを使って、なにを考えてる?」
悲鳴に近い俺の声が、妙にこだまして響く。目の前にいるふたりはなにも答えずに、俺の額にふたりぶんの指が同時に押しつけられた。
「ぎゃっ!」
首を横に振りまくって、押しつけられた指を外したが、フェロモンを思いきりつけられてしまった。
「津久野さん、質問にちゃんと答えてるからって、なにもされないと思ってる貴方の神経が信じられません。私の大事な親友を……誰かを平然と傷つけているというのに、罰が与えられないと考えてる時点で終わってます」
言い終える直前に、左頬に指が痛いくらいに突き立てられた。
「バツ、だと? こんなの罰じゃない、虐待じゃないか」
「だったら部長のしているコトは、いったいなんですかぁ? 言ってみてくださいよ」
今度は右頬に指が食い込む。外したくても外れないくらいに突かれているせいで、顔が動かせなかった。