あの日の誓い
(どうなってるんだ、いったい。森の中で木に括りつけられていたときに言われたのが、『録音』という言葉だけだった。なのに実際は撮影までして、妻を含めた親族相手に晒し者にするとか――)
「明美、おまえは華代とつながっているのか? アイツは俺の愛人だぞ!」
信じられない事実にたどり着き、怒りを滲ませながら妻に怒鳴った途端に、ほほ笑みを消して真顔になった明美が、俺の頬を平手打ちした。
パーン!
叩かれた反動で、顔が真横を向く。親父に往復ビンタされたときよりも、なぜか痛みを感じた。
「私にだって、悪いところがあるのは認めるわ。アナタときちんと向き合って、話し合いを重ねていたら、こんなことにはならなかったと思うの」
「こんな……こと?」
悲しげな声に導かれて顔をもとに戻したら、泣き出しそうな瞳とかち合う。
「私のさびしい気持ちを輝明さんにきちんと打ち明けていたら、家にいる時間を増やしてくれたかしら?」
「それは――」
「輝明さんが家庭のために、仕事を頑張っていたから、あえてそのことを言わずにいたのよ。余計なことを言って、アナタの負担になりたくなかったもの」
「明美……」
涙が見る間に増えていく妻の顔を見ていられなくなり、深く俯く。
「なのに実際はあちこちに愛人を作って、忙しくしていたなんて。不妊治療でつらい思いをしてる私を尻目に、アナタは楽しんでいたのよね?」
「…………」
「私だけじゃなく、不倫相手の気持ちを弄んだ結果がこれよ。快楽を得るために身勝手をした輝明さんには、これから罰を受けてもらいます」
罰というセリフに慌てて顔をあげたら、みんなが俺から離れていく。
『そうだね。ここでの復讐は終わりにしてあげる。移動しようか、部長』
不意に思い出した、華代の言葉。眠らせられる前に告げられたせいで、妙な引っかかりを覚えたものだった。
「華代だけじゃなく、明美にまで俺は復讐されるのか?」
「復讐なんて、生ぬるい言葉を使わないでください」
ピシャリと言い放った明美の顔は、さっきまでの悲しみがなくなっていて、汚いものを見る目で俺を眺める。
「輝明さん、自宅に離婚届が記入済みで置いてありますので、あとはご自分のところを記入して捺印したあと、役場に提出してください。それと慰謝料のこともあるから今後の連絡は、テーブルに置いた弁護士さんの名刺の番号でお願いね」
「あ……」
「おまえ、高田さん家はもちろん、津久野の家にも金輪際近づくなよ。おまえなんて息子じゃない! 縁を切る、勘当だ!」
こうして俺の前から、親しかった人たちが一斉に立ち去った。抜け殻になった俺に残ったのは、会社だけになってしまった。
気落ちしたまま自宅に帰り、明美に言われたとおりに、離婚届に記入捺印してから封筒に入れて、次の日に提出できるように、愛用しているカバンにそっと忍ばせた。
ひとりきりの夜を乗り切り、月曜日の朝、いつもどおりに出勤した俺は、人事の呼び出しをくらった。
「明美、おまえは華代とつながっているのか? アイツは俺の愛人だぞ!」
信じられない事実にたどり着き、怒りを滲ませながら妻に怒鳴った途端に、ほほ笑みを消して真顔になった明美が、俺の頬を平手打ちした。
パーン!
叩かれた反動で、顔が真横を向く。親父に往復ビンタされたときよりも、なぜか痛みを感じた。
「私にだって、悪いところがあるのは認めるわ。アナタときちんと向き合って、話し合いを重ねていたら、こんなことにはならなかったと思うの」
「こんな……こと?」
悲しげな声に導かれて顔をもとに戻したら、泣き出しそうな瞳とかち合う。
「私のさびしい気持ちを輝明さんにきちんと打ち明けていたら、家にいる時間を増やしてくれたかしら?」
「それは――」
「輝明さんが家庭のために、仕事を頑張っていたから、あえてそのことを言わずにいたのよ。余計なことを言って、アナタの負担になりたくなかったもの」
「明美……」
涙が見る間に増えていく妻の顔を見ていられなくなり、深く俯く。
「なのに実際はあちこちに愛人を作って、忙しくしていたなんて。不妊治療でつらい思いをしてる私を尻目に、アナタは楽しんでいたのよね?」
「…………」
「私だけじゃなく、不倫相手の気持ちを弄んだ結果がこれよ。快楽を得るために身勝手をした輝明さんには、これから罰を受けてもらいます」
罰というセリフに慌てて顔をあげたら、みんなが俺から離れていく。
『そうだね。ここでの復讐は終わりにしてあげる。移動しようか、部長』
不意に思い出した、華代の言葉。眠らせられる前に告げられたせいで、妙な引っかかりを覚えたものだった。
「華代だけじゃなく、明美にまで俺は復讐されるのか?」
「復讐なんて、生ぬるい言葉を使わないでください」
ピシャリと言い放った明美の顔は、さっきまでの悲しみがなくなっていて、汚いものを見る目で俺を眺める。
「輝明さん、自宅に離婚届が記入済みで置いてありますので、あとはご自分のところを記入して捺印したあと、役場に提出してください。それと慰謝料のこともあるから今後の連絡は、テーブルに置いた弁護士さんの名刺の番号でお願いね」
「あ……」
「おまえ、高田さん家はもちろん、津久野の家にも金輪際近づくなよ。おまえなんて息子じゃない! 縁を切る、勘当だ!」
こうして俺の前から、親しかった人たちが一斉に立ち去った。抜け殻になった俺に残ったのは、会社だけになってしまった。
気落ちしたまま自宅に帰り、明美に言われたとおりに、離婚届に記入捺印してから封筒に入れて、次の日に提出できるように、愛用しているカバンにそっと忍ばせた。
ひとりきりの夜を乗り切り、月曜日の朝、いつもどおりに出勤した俺は、人事の呼び出しをくらった。