あの日の誓い
 そして、目の前に差し出された小指。ハナの顔とそれを、交互に見比べた。

「私の自慢の親友は、世界一かわいくて気の利くできた女だぞ。そのことに、絶対嘘をついてない。指切りげんまんしてもいいくらい!」

 迷うことなく、ハナの小指に自分の小指を絡める。

「親友のハナじゃなきゃ、重たい私の背中を押すことができないな」

 ぎゅっと結ばれた私たちの小指。昔も今もこうして、仲良く指切りげんまんできるしあわせを噛みしめてしまった。

「ちょうどいいところに、榊原くんの登場じゃない。行ってらっしゃい、頑張るんだぞ!」

 ビルから出てきた彼にいち早く気づいたハナは、小指を抜き去った勢いをそのままに、航希くんに向かって私の背中を力強く押した。

「ハナっ、ちょっと危ないって!」

 躓きかけた私を、航希くんがナイスキャッチするように抱きしめる。

「榊原くん、絵里は食べ頃だぞ~!」

 ハナは信じられないことを言い放ち、足早に去って行った。

「絵里さん、大丈夫ですか?」

 航希くんは真っ赤になってる私を心配して、わざわざ顔を覗き込む。

「あわわっ、だっ大丈夫だよ!」

「それは、どっちの大丈夫ですか?」

「へっ?」

「体調が大丈夫なのか、それとも食べていいという大丈夫の、どちらなんでしょうねぇ」

 いたずらっ子みたいに笑う彼の体を、両手でぽかぽか叩いた。

「航希くんってば!」

「俺は絵里さんの気持ちが固まるまで、粘り強く待つつもりですけどね」

 そう言って、私の手を恋人繋ぎして歩きはじめる。

「そういえば津久野さんの奥さんから連絡がありまして、旦那さんから慰謝料全額振り込まれたそうです」

「そうなんだ」

「最初の話では分割でって言われていたのに、いきなり全額を振り込まれたとか」

「ふーん、いきなりねぇ」

 私としては、どうでもいい相手の話だったので、適当な返事ばかりになってしまった。

「慰謝料を受け取ったという領収書を一応送ろうとしたらしいんですけど、どこにいるのかわからないみたいです」

「それって――」

「俺たちが所長に絶対直接関わるなと言われた人物に、拉致られた可能性があるかもですよね」

 所長さんから伝えられたことで、ハナと奥様に内緒にしてることがあった。私は探偵事務所に依頼した経緯があるため、すべての調査報告を受けているゆえに、そのことを知っている。

「津久野さんが支店で不倫してた、若い女子社員のお宅が暴力団関係者だったなんてね」

「しかも彼女と付き合った男性が、軒並み行方不明になっているのは、絶対あやしいです。そのせいで、調査を断念せざるを得なかったんですけど」

「悪いことをしたバチが当たったんだよ。どうかもう誰にも迷惑をかけずに、海でも山でも散ってほしい」

 航希くんと恋人繋ぎした手を大きく振ったら、いきなりぎゅっと握りしめられて、動きを止められた。

「俺の希望としては、俺の胸の中で、絵里さんが果てて欲しいと思ってるんですが?」

「ぶっ!」

(さっき、粘り強く待つって言ったクセに。もしかして航希くんってば、ハナに踊らされてる?)

「仕事でお疲れであろう絵里さんのマッサージ込みで、全力で癒して差し上げますが、いかがですか?」

「ちょっと、航希くん……」

「だって斎藤さんが『絵里は食べ頃』なぁんて、親友の目利きで判断してるのを、無碍にするのはどうかと思うんです。どうしても食べたくなっちゃうじゃないですか」

 目に眩しい恋人の笑顔を見せられて、断れる人がいるなら見てみたい――。
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