あの日の誓い
 山下探偵事務所内では、いつものごとく副所長の叱責が響く。

「所長、明後日依頼人に提出する書類をプリントアウトしてまとめたやつ、ちゃんと目を通してくれてます?」

「あ~アレね、どこに置いたっけ?」

 雑然としたデスクの上を探す所長に、田所が盛大なため息をついた。

「未提出書類関係置き場に、きちんと置きましたからね。そこから手を出した所長の動きなんて、私は全然わかりませんよ」

「またまた~、知ってるクセに!」

「知ってるのは、榊原くんの気持ちくらいです」

 さらりとメンバーのことを口にした副所長の田所に、山下は口元に手を添えながら、頬を赤く染めあげた。

「嘘っ、田所さんってば、うんと年下の榊原くんのことが、ホの字だったなんて!」

「違います! 所長、わざと私を怒らせているでしょ!」

 勢いよく椅子から立ち上がり、両手を腰に当てて怒りまくる田所を見た山下は、にゃははと苦笑いを浮かべる。

「ごめんって、冗談ジョーダン、マイケル・ジャクソン」

「それをこのタイミングで言うなら、マイケル・ジョーダン!」

「あ~、そうとも言う!」

「笑えない冗談を言わないでくださいよ、まったく!」

 苛立ちまかせに、椅子に腰かけた田所。椅子の軋んだすごい音が、事務所に鳴り響いた。

「所長、このままでいいんですか? あのクソ真面目な榊原くんが、依頼人の岡本さんに執着してること。絶対によくないですって」

「人の恋路くらい、自由にしてあげてもよくない?」

 山下は平然と言いながら、散らかったデスクを片付けはじめた。

「私が馬に蹴られてしまったほうがいいんですか?」

「それは困る。書類の行方が、わからないままになってしまうからね」

「このままだと榊原くんが進んで、厄介なことに首を突っ込みますよ」

「それもまた、人生経験になっていいんじゃないかな。お、書類発掘成功!」

 嬉々として、たくさんの書類の間からお目当ての書類を見つけ出し、しっかり椅子に腰かけて読み出す山下に、田所は呆れた声をあげる。

「他人事だから、そんな冷たい対応ができるんですね」

「田所ちゃん、俺は探偵を生業にしてるから、人の嫌な部分を目にする機会が、たくさんあるわけでしょ?」

「そうですね……」

「アシスタントの榊原くんも一緒にいるわけだから、同じように目にしてるわけでさ」

「ちなみに、私もご一緒してますけどね!」

「田所ちゃんは、まだ日が浅いって。俺は10年超えで、榊原くんはかれこれ5年だったかな」

 山下の解説を聞くために、田所は黙ったまま話に耳を傾ける。
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