あの日の誓い
☆☆☆

 行きつけのバー『ムーンナイト』で、絵里は華代相手に愚痴りながら、恋愛相談を持ち掛けた。

「航希くんの押しが強すぎて、対処の仕方がわからない。めちゃくちゃ困ってる」

「押しが強いって、好きだって言われたの?」

「それを含めて、いろいろ。あんないいコが、30手前のいい歳した女に迫るとか、勿体ないと思うんだよね」

「その言葉、そっくりそのままお返ししてあげる。30手前のいい女を捕まえようと、必死になってるイケメンの榊原くん、さすがだわぁ」

「ハナ、なに言ってんの。冗談にもほどがあるって」

「私はね、絵里にはしあわせになってもらいたいって思ってんの。変な男に捕まる前に、榊原くんのモノになっちゃいなよ」

「モノになれと言われてもなぁ。結婚はおろか、恋愛することに対しても諦めてるし」

「絵里に聞くけど、私には、しあわせになってほしくないと思ってる?」

「まさか。今度はちゃんとした恋愛を経て、しあわせになってほしいと願ってるよ」

「私もね、同じ気持ちなの。大事な親友のしあわせな姿を、この目で見たいと思っちゃダメ?」

「ハナ……」

「華代さんと絵里さん、ちょっといいですか?」

 バーでピアノを弾いていた聖哉が、いきなり話に割り込む。

「聖哉くん、どうしたの?」

「ピアノを弾きながら、お二人の話に耳を傾けていたんですけど、絵里さんの言葉は、感想を言っているような気がしたんです。その彼のことを実際どう想っているのか、仰ってないですよね?」

「聖哉くんナイス! いいところに気づいてくれたね。ほら絵里、白状しちゃいなさいよ」

「だから、いいコだって――」

「絵里さん、彼のことは好き? それとも嫌いですか?」

「それは、あのぅ……」

「聖哉、これ以上絵里さんを虐めるのはやめてやれ。顔を見ただけで、どう想ってるのかわかってるだろ」

 マスターが突如助け舟を出し、テーブルにナッツの入ったサービスの小皿を置いて、聖哉の腕を引っ張り、絵里と華代のふたりだけにした。

「あーあ、ふたりに気を遣わせちゃった。絵里がハッキリしないのが悪いんだよ」

「だって……」

「しばらく恋愛にご無沙汰してたから、怖い気持ちはわかる。だけどなにもしなかったほうが、間違いなく後悔するんじゃない?」

「ハナ――」

「後悔しないためにも、榊原くんと付き合う?」

「……うん」

「ということで、絵里から言質がとれました!」

 いきなり立ち上がり、ガッツポーズを決めた華代に、マスターと聖哉、そして周囲の客から拍手が送られる。

「え?」

「皆さん、ご協力ありがとうございました。榊原くん、出ておいで」

 バーにいる店員と客まで巻き込み、絵里の言質をとっただけじゃなく、その場に榊原がいたとは、思いもよらず――。

「ちょ、ちょっと待って! なになに、いきなりなんなの!?」

「榊原くん、よかったね。これで心置きなく絵里と付き合えるよ」

 カウンターの影から出てきた榊原の姿に、絵里はぶわっと赤面した。

「俺と付き合うことを決心してくれて、すっごく嬉しいです。これからよろしくお願いします」

 差し出された榊原の右手に、絵里は迷うことなく自分の利き手を差し出した。

「よろしくお願いします……」

 聖哉は気を利かせて、ピアノで『小さな恋のうた』をしっとりした曲調で奏でる。それに合わせて、皆拍手でふたりをお祝いした。

 こうして新たに、初々しいカップルが誕生した。このことがキッカケとなり、『ムーンナイト』で告白やプロポーズをしたら成功するいう、恋のジンクスができたのだった。
< 66 / 66 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:3

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~

総文字数/113,767

恋愛(オフィスラブ)110ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
会社で憧れている先輩にばったり逢ってしまった。 運命のチャンスを生かすべく、ここぞとばかりに話しかけてみたけれど!?
表紙を見る 表紙を閉じる
☆『サレ妻と欲しがり女』というタイトルでコミカライズ! めちゃコミ様にて12月29日配信されました。 https://mechacomic.jp/books/183244

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop