勇気を翼に込めて。

震えるトーン

震えるトーン

「先生」


入り口で早速、挙動不審な怪しい、「先生」を見つける。

「お医者さ……「あの、」

背の高い男性から声をかけられた。


どうしよう、とりあえず笑い返してみる。男性は嬉しそうに笑う。

「ちょっと。ねえ。」

手を触ろうとしてくるのは気のせい?じゃないかも。怖いな、なんて。





何、このシュールな空気。

「津田さん!」

「先生」

気がついてくれた。

「"彼女"に何か用ですか?」

彼女の部分強調してくれた気がするのは気のせいかな?

先生が身なりの整った素敵な男性を追い払うと目を見て言われる。



「ちょっと、来て。」


そう言って壁の隅によけて、こちらを振り返る。

目が笑ってない。


先生が

「心配だったんですよ。」





さっきも、


「やいた、恥ずかしいくらいに。」

「誰にも見せたくない。」

「誰かに笑うのやめてほしい。」


そう言って先生が私の頬に触れる。


心臓どきむね。





このほっぺにも誰にも触れないように、先生お仕置きしないといけないなあ。

「んっ」

キスされた。何度も。

待って、ここ病院でしょう?



しかも、

「暖房効きすぎてて溶けそう。」

「溶かすのなんて簡単ですよ。やってみましょうか?」

そう言ってニヤリと笑う先生に顔が熱くて。

「目、見て。」


「何震えてるの、怖い?」


「好き。」

「はあ……。」

先生がため息つく。あきれたのかな。



「メール送っても失敗しましたって震えるだけで。こんなもの、携帯する意味ないって思った。」


そう言ってスマホを取り出す。

「芯から繋がってないとダメみたいだ。」

そう言って先生はスマホを使って確認作業を始める。私のスマホもいつの間にか取られていた。


「パスワード。」

「秘密ですよ?」

先生に小さく耳打ちする。


「誕生日?」

「言わないのー!……何で分かるの?」


「……好きだから。」


目を逸らしてスマホを渡す。

「メールアドレスと電話番号とLINEやった。」

「LINEやってるの?」


「変ですか?」

どうしよう、にやけてしまう。


信じること、それだけが真実。

「先生。」

お医者さんに私、言いたいことがあって。


「私、目の調子悪くて学校辞めちゃったんです、せっかく応援してくれたのに。ごめんなさい。」

「どんな道を選んでも応援するって言ったじゃないですか。」

「うん。」


先生がキッパリと即答するから拍子抜け。でも、淡く期待してた通り。覚えてないと思ってたけど。

一人で悶々と、過度な心配してたから、逆に目の調子悪くならないか不安だったけど、気にしすぎだったみたい。先生は、こう言う人、私の特別な人だから。

「覚えてない?」


「覚えてますよ。」


逆に私の方がおつむの心配されちゃった。覚えてないわけがない。

「私が高校願書出す時に二つの高校で揺れてたんですよね。

近いけど厳しい高校と、遠いけど優しい高校。もう嫌になって受験そのものをやめようとした時。

最初は無責任だなって思いましたよ。でも……」

そう、先生が過度に励ますでもなく突き放すでもなく見守ってくれたから勇気を出せたんだ。

「私、退院する時に言いましたよね。弟の分まで頑張りますって。あれ、守れなかった。」

「それに、先生に卒業したら、ぎゅーしてくださいって言ったの幻になっちゃった。残念。」


そう言って泣きたくなる。私は中3で亡くなった弟の分まで頑張りたかった。それをみんなが応援してくれてて。でも結局、弱い自分は、負けた。


「負け犬」私が呟く。


「負け犬は、負けを認めようとしないで意地を張るじゃないですか。津田さんはちゃんと現実を見てるから苦しくなるんですよ。毎日、ちゃんと頑張ってる証拠だから。」

「自分を責めないで。」

先生がポケットから何かを取り出す。


「これ、シール」

「シール???」

ほっぺに貼るシール、そう言って先生はラメの乗ったハートを。

「これで先生の、って。」

「先生、独占欲強めだから。」



独占欲。そっか今のお医者さんには高校失敗した事よりも私が他人に触れられる方が問題なのか。



可笑しくて笑ってしまう。嬉しくて泣いてしまう。

「え!」

「嫌だった???」

大好きな先生に心配かけてしまった。でもそのぐらい近くにいるってことだ。




「うれピーマン。嬉しい、から。」


「うれピーマン……。



先生、ピーマン苦手だった。」

吹き出す。え、何それ。




「子供みたい!」






「津田さんは?」

「私は好きですよ。」


先生が、




「先生とどっちが好き?」


なんて聞いてくるもんだから。


「内緒。」



私は意地悪したくて。



「ちっ」

今、舌打ちした?


「津田さんって、素直じゃないですよね。」

冷めた目で言われた。なんかムカつく。


「私は、お医者さんの連絡先聞きにきたんです!」

「先生も知りたかった。」

「じゃあ、両思いですね。」


「マジか。」


お医者さんはそう言って顔を覆う。

この人、恥ずかしい気持ちなんてあるのかしらって当時思ってたけど、これってもしかしたら。

「照れてる?」

「照れてる。」

素直なお医者さんに、私は嬉しくなって。

「先生。私、幸せな時、目の調子が悪くならないことに気が付いたんです。」


「……今は?」

「内緒。」

せっかく言おうと思ったのに恥ずかしさが勝ってまた隠してしまう。

「じゃあ、」



先生が優しく笑う。みていられなくて目を逸らす。

「これからもっと幸せにします。だから、一緒にいてくださいね。」


先生が頭に手をポンと置く。暖かい気持ちになる。


全てが愛おしくて、この時間が永遠に続けばいいのに、なんて思う。







「……そろそろ、時間ですか?」


今度は学習して私から切り上げる。先生の、負担になりたくないから。

「そうですね。」

名残惜しく聞こえるのは、自惚れかなあ?

「帰ったらメールしますよ。絶対。」

先生が言ってくれた。



「はい。」

いつも私から何かを提案しないと一緒に何かをなんて、何もしてくれなかったぶっきらぼうのお医者さん。

本当はすごく優しいのに、

「優しくないから怒らない。相手のためを思って怒るのは優しさだ。」って良く言ってた。

そんなお医者さんが自分からメールするって言ってくれるなんて。




「うれピーマン今度、作りたい!」


「へ?」

「作ったら食べてくれますか?」


ちょっと酷かったかな。好きな人の嫌いなものを作りたいなんて。言ったあと、すごく後悔する。

「作るならさ、先生のうちこない?」

え?

「津田さんの家でもいいんだけど。」

え?え?

「ピーマン食べてくれるの?」






「苦手だったけど今は食べられます。」



がくっ。ちょっと勘違いしてたから嬉しい。


いつか、一緒にピーマン食べられる。あれ、これシュール?(独特)


「津田さんの料理、期待しちゃうな。」

だけど、予定もなく、大口を叩いた私。



「やばい。私料理下手なのに。一緒に作りましょう?」


上目遣いして目、ぱちくりしてみせる。きっととてつもなく滑稽で、ちょっとしたギャグだ。私はそんなに可愛くないから。

「…っ。そんな目で見ても何もないですよ。そんなに一緒に、したいの?」

したいとは一緒に料理を作りたいってことだ。少し勘違いしてしまいそうになる。急に家とか、言うし。でも先生の方から誘ってくれるなんて嬉しい。


「したい」


私は笑って答える。先生が挙動不審にキョロキョロしだした。その時。

「先生もう行かなきゃ。」

突然先生がくるりと背を向ける。

「また今度、しましょうね。」


そう言って先生は何かを言いながら去ってしまった。


「可愛すぎだろ、勘違いして、やられる。」



ポツンと残された私。


何か変なこと言ったっけ?不安になる私はいつも失言をして周りに「オカシな子」と思われている節がある。

怖い。不安に飲まれると私は非力になる。「目は心の窓」と言うくらいだから私は情緒に左右されすぎてしまうのだ。


だからいつも不安を感じた時は反対の行動をとっている。

スーパーに行って不安になるのは、焦るから。だから、時間に余裕がある時にする。でも先生の時間は有限だから仕方ない。それも考慮しながら、私の余裕のある時に会いにくればいい。

突然電話がかかってくると怖いから、できるだけ事前に伝えてもらうようにしてる。先生は、「帰ったら」って言ってた。楽しみだなあ。

ご飯を食べている時に、無防備なのが怖くて誰かとご飯食べるのが苦手なんだけど、先生となら大丈夫。




先生、色に染まってるよ。


この気持ちがくすぐったくて。嬉しくて。


私は大きく深呼吸をする。





胸に広がる空気と大好きな気持ち。


大切にします。


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