君が月に帰るまで


「今日の月の入りは14時46分。塾の自習室で勉強してもいいんだけど、よかったら図書館に行ってみない?」

「としょかん?」
「うん、本がいっぱいあるところだよ。ゆめの好きな歴史に関する本もたくさんあるから楽しめると思う。電車で10分くらいのところに、気に入ってる図書館があって。そこに行ってみない? 14時に家に帰ってくる予定にしてさ」

「わぁ、うん。行ってみたい。でんしゃ? も乗りたい!」

ゆめがキャッキャと喜ぶ姿を、はじめは目を細めて見つめた。素直でとてもかわいらしく思える。

「じゃあ、朝ごはん食べたらすぐ行こう」

そう言ってリビングへ行き、ふたりで朝食をとると身支度をして図書館へ出かける。

「向田さん、いってきます」
「はい、気をつけて。お嬢さま、きょうはお部屋のお掃除いかがいたしましょう」
「あー……」

ゆめは困ったように俯いた。
向田はウサギがいなかったら、怪しむかもしれない。そう思っているのだろうか。

「向田さん、お部屋の掃除は今日はけっこうです。ウサギなんですけど、どうもちょっと凶暴で……。向田さんが噛まれてもいけませんので、ケージに入れたままにしてあります。帰ってきたら私が世話をしますので部屋には入らないようお願いします」

うまいような、ちょっと無理やりのような断り方をしたゆめ。それでも向田には伝わったらしい。
急にちゃんとした言葉遣いでしゃべるものだから、見違えて見えた。
< 61 / 138 >

この作品をシェア

pagetop