君が月に帰るまで

『ちょっと、零!! 勝手なことしないでよ! 危なくゆめは帰らなきゃ行けないところだったのよ。慌てて私がお父様の説得に行ったからいいものを……』

『はなー!! 久しぶり!! 元気にしてた?』

テンション高めの姉にも驚く。いったいどうなってるんだ? ていうか、零さんも想念聞こえるの? 想念のパワーって加減できるのかな。

『おかげさまで元気よ。妹のことよろしくね!! じゃ!!』

『待って待って、詩穂もあとで呼ぶから三人で話そうよ』

『詩穂と話すことなんか、何もないわよ!! あんたたちが幸せでなにより。月に来ることがあったら言ってよ。もてなすからねー』

『はなー、カムバーック!!』

『バカ!!』

一方的にぶちんと切れた想念。長い沈黙のあと、ゆめが口を開く。

「あの……これはいったい……」

「朔さん、本当にしゃべっていいの?」

「はじめさまには、言わないでくださいね」零の話はこうだった。

零が高3の夏、両親とはじめが学会で海外に行っている間に、満月は2週間の地球見学にきた。

満月は零の友だちの(とおる)に恋してたらしいんだけど、うまくいかず。零の彼女の詩穂と三人で地球見学を楽しんで帰ったそうだ。

失恋した満月が気丈にも笑顔で去っていくのが忘れられなくて、心に引っかかっていたところ、うりふたつの妹が現れてびっくりしたとのこと。

「ゆめちゃんも、誰かに恋してて、地球に来たの?」

「……」

「まさか、はじめじゃないよね?」

「……」

図星で何も言えない。耳まで真っ赤になり、うつむいてカタカタ震えた。

「……、ゆめちゃんありがとうね」

「えっ?」

「あんな弟でも、好きになってくれてありがとう」

「あの……」

「うまくいくといいね」「……、たぶん無理です。でも楽しい想い出がちょっとずつ増えてるんで、最後まで地球を楽しみたいと思ってます」

へらへらと、零に笑いかける。零は困ったように笑ってそれ以上何も言わなかった。

場外市場に着くと、すごい人でごった返していた。朔も寿司を食べると言ってついて来たが歩くのがやっとだ。

美味しい匂いにつられて、ふらふらと二人から離れてしまったのがいけなかった。ハッと気づくと、二人の姿はなく、ゆめは完全に迷子になっていた。
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