死グナル/連作SFホラー
畳の下⓶
元不動産業:安原鈴絵の場合
『…俺の場合、そう言う時にはあるものが頭に浮かんで、どうしようもなく嫌な気分になるんだ。実際に死ぬということより、自分が死んだら何が待ち受けているのかなあって想像して、全身の血の気が引いてくるんだよ。今夜あたり、目を閉じるとアレが瞼に焼き付いて、夢に出てくるかもしれないな…。ああ、アレとは、顔だよ。人間の…』
顔…!
「…」
小原さんの表情は、やや変な表現になるが、とても真摯な感じがしました。
何故か…。
『この際、鈴絵さんには聞いてもらうかな…』
私は「はい」と二つ返事でしたが、今にして思うと、できれば聞きたくなかったという、一種の後悔の念もあります。
そのことで、私も小原さんのように、何かの折には”死後”という底なしの不安が、私の頭と心を支配することになるのですから…。
***
小原さんの”その話”は、その時点から15年ほど遡った、ある仕事を請け負った際のことでした。
『その仕事は知り合いからの伝手でね。現場は県の南端のさ、S町の民家だった。築年数は相当経っていたが、結構なお屋敷でね、20畳ある広い和室の畳替えの仕事をもらったんだよ。ところがさ、その部屋の畳1枚だけはそのままにして欲しいということだったんだ』
その家は昔から金物屋さんを営んできて、その近辺では名家として通っていたそうです。
『まあ、実際に部屋で若奥さんからそう説明されてさ、”その1枚”はすぐに察しが付いた。床の間の前が1枚だけ、明らかにずっとそのままだってわかったから。何しろ、他の畳とはもろに色が違ってて、畳もへこんでたのが目視で確認できたし』
「そうですか…。でも、その1枚だけどうして…」
私は心持ち、ためらいがちに尋ねました。
今思えば、自然と嫌な想像が頭を巡っていたのでしょう。
元不動産業:安原鈴絵の場合
『…俺の場合、そう言う時にはあるものが頭に浮かんで、どうしようもなく嫌な気分になるんだ。実際に死ぬということより、自分が死んだら何が待ち受けているのかなあって想像して、全身の血の気が引いてくるんだよ。今夜あたり、目を閉じるとアレが瞼に焼き付いて、夢に出てくるかもしれないな…。ああ、アレとは、顔だよ。人間の…』
顔…!
「…」
小原さんの表情は、やや変な表現になるが、とても真摯な感じがしました。
何故か…。
『この際、鈴絵さんには聞いてもらうかな…』
私は「はい」と二つ返事でしたが、今にして思うと、できれば聞きたくなかったという、一種の後悔の念もあります。
そのことで、私も小原さんのように、何かの折には”死後”という底なしの不安が、私の頭と心を支配することになるのですから…。
***
小原さんの”その話”は、その時点から15年ほど遡った、ある仕事を請け負った際のことでした。
『その仕事は知り合いからの伝手でね。現場は県の南端のさ、S町の民家だった。築年数は相当経っていたが、結構なお屋敷でね、20畳ある広い和室の畳替えの仕事をもらったんだよ。ところがさ、その部屋の畳1枚だけはそのままにして欲しいということだったんだ』
その家は昔から金物屋さんを営んできて、その近辺では名家として通っていたそうです。
『まあ、実際に部屋で若奥さんからそう説明されてさ、”その1枚”はすぐに察しが付いた。床の間の前が1枚だけ、明らかにずっとそのままだってわかったから。何しろ、他の畳とはもろに色が違ってて、畳もへこんでたのが目視で確認できたし』
「そうですか…。でも、その1枚だけどうして…」
私は心持ち、ためらいがちに尋ねました。
今思えば、自然と嫌な想像が頭を巡っていたのでしょう。