高嶺の花も恋をする【番外編追加】
高嶺の花も恋をする
終業後に帰り支度を済ませてエレベーターに乗ると、同期の佐伯くんがいた。

「佐伯くん、お疲れ様」

「お疲れ様です....」

挨拶の返しを聞いて、苦笑いしてしまう。

ー相変わらず敬語だな.....ー

同期のみんなとは入社後すぐ打ち解けて、敬語なしで接しているし、みんなもそうしてくれている。

ただ一人だけ。佐伯くんを除いては。

何故だか佐伯くんは女性には敬語を貫いている。

これを壁と言うのかな?

同期会では男同士楽しそうに話しているけど、私達女性陣とはあまり話さない。

話しかければ答えてくれるけど、自ら話しかけることはないみたいだし。

私が話しかけても、どもって『はい』とか『いいえ』とか、返事関係はしてくれるけど、あまり会話が広がった事はない。

そんな佐伯くんのことを考えていたら、目の前からボソッと声がした。

「1階でいいですか?」

「え?」

「降りるの...1階でいいですか?」

「えっ...あっ!ごめんなさい!そう、1階!」

佐伯くんのこと考えてて、つい忘れていた。

焦って行先階ボタンの1階を押そうと手を伸ばした時、佐伯くんも手を伸ばして来て、私より先に1階のボタンを押した。

それに重なるように彼の手に触れてしまった私の指先。

ハッとして佐伯くんを見ようとした時、目の前には彼の喉元。

その瞬間胸の鼓動を強く感じて、彼の顔を凝視した。

えっ!ブラウンかかった綺麗な瞳。

一瞬視線が合って、私はそれを凝視した。

すぐに視界から消えてしまったけど、私の視線はストップしたまま空を見る。

『チンッ』

その音にハッとした時、佐伯くんは私の横を通り過ぎてエレベーターを降りて行った。

エレベーターの中に私一人。

胸から熱を発して顔へと上がって行く。

何?これ.....。

顔中に感じる熱に両頬を手で包み、どんどん速くなる鼓動に戸惑い、今度は胸に手をあてる。

どうしたの?私。

グルグルと考えているうちにエレベーターは一階に到着して、開いたドアからフラフラと歩いて出た。

エントランスを歩きながら、この膨れ上がる感情をコントロール出来ず、どうしたらいいか分からない勢いで親友の亜香里にメッセージを送った。





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