高嶺の花も恋をする【番外編追加】
出口に向かって行ってしまった佐伯くんの後姿を呆然として見ていると、「莉緒、行くわよ」と言う亜香里の声が聞こえた。

「....え?」

亜香里の言葉の意味が分からずその顔を見ると、眉間にシワを寄せてため息をついて見せた。

「周りが混乱してざわついている」

ほらと顎をしゃくって見せた。

周りに視線をやれば、みんなの視線がこちらに向いている。

男性社員も女性社員もみんな。

それらを見ていると腕を掴まれて引っ張られて立ち上がった。

「口付けてないから、良かったら食べて」

亜香里は隣の男性社員達に2つのランチを差し出して、私に「行こ」と言いながら前を歩いて行った。

私は放心状態のまま亜香里について行く。

連れて行かれたのは小会議室。

入るなり振り返った亜香里は大きなため息をついた。

「莉緒、どうしたの?いきなり」

「....ごめん」

俯いて答えた私に亜香里は頭を撫でて慰めてくれる。

「まあ...佐伯もビックリしちゃったんじゃない?あんな場だし。急な告白だし」

「うん。思いっきり振られちゃった。...嫌われたね」

「いや〜嫌われたかどうかは分からないけど。莉緒の声も大きかったし、みんな見てたしね」

「嫌われたよ。迷惑だって言ってたし」

「莉緒.....」

亜香里がいろいろとフォローしてくれているのは分かったけど、何よりも佐伯くんの『迷惑です』の言葉が頭の中をリフレインして、気持ちの切り替えなんて出来なかった。

その後自分のデスクに戻ったけど、集中なんて出来ずにミスばかりしてしまった。

亜香里が『今日はうちにおいで』とメッセージを送ってくれたけど、『ありがとう。今日は独りでいたい』と我儘を言わせてもらい退勤時間になってすぐに帰宅して泣いた。

時間が経てば経つほど佐伯くんに振られた事実が心に迫ってきて。

佐伯くんの顔を思い浮かべる度に涙が出て。

嫌われたんだと思う度にまた泣いた。

この日は金曜日だったから明日のことなんか考えず、気持ちの思うままに泣き続けていつの間にか寝てしまった。

夜中に目が覚めると涙で顔がパリパリで気持ち悪く、泣きつくしたせいで喉も乾いていたので、冷蔵庫からミネラルウォーターを取りゴクゴク飲みながら浴室に向かう。

クレンジングで適当にメイクを落としてから熱いシャワーを浴びた。

ワシャワシャとシャンプーで髪をかきむしるみたいに頭を洗い、適当にトリートメントをして、ボディーソープでゴシゴシ洗う。

ため息をつきながら。

何か全てがどうでもよくなる。

佐伯くんに嫌われた.....

佐伯くんにフラれた.....

これからどうしよう.....

そんな事ばかり考えてしまって、スキンケアもせず髪はタオルドライしたまま頭に巻いたまま、またベッドに横になって泣きながら寝てしまった。
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