高嶺の花も恋をする【番外編追加】
月曜日、ため息をつきながら出社すると、何だかいつもよりいろいろな人に話しかけられた。

『雨宮さんおはよう』

その挨拶はいつものことだし、別に違和感はない。

もちろん挨拶だけの人は多い。

でもおはようの挨拶の後に言葉が続く人がいたり、昼休みや帰りに話しかけてきた人がいつも以上に多かった気がする。

『雨宮さんおはよう。この前大変だったみたいだね。よかったら相談のるよ』

『雨宮さん大丈夫?』

『ランチでいい店見つけたんだけど、一緒に行かない?奢るよ』

『えー雨宮さん。私達とランチ行こうよ。レディースセットの美味しいお店あるよ。みんなで行こうよ!』

『雨宮さん、僕でよかったら何でも頼って下さい』

『雨宮、帰り飲みに行かないか?』

いろんな言葉や誘いにどれも作り笑顔でとりあえず返事をした。

何だか疲れてしまって最後の飲みの誘いをお断りしている最中に亜香里が登場して『莉緒!飲みに行くよ!』と腕を引っ張られてその場を後にした。

そのまま亜香里と会社を後にする間に何人も声をかけてきてくれたけど、『亜香里と約束してるので』と断って行きつけの焼き鳥屋さんに入った。
 
「今日1日あんな感じだったんでしょ?」

入店後直ぐに注文した生ビールを飲みながら聞いてくる亜香里。

私も生ビールを一口飲んで頷いた。

「何か今日はやたらと視線を感じたし、話しかけられた」

「だろうね。みんな興味深々なのよ。高嶺の花が失恋した。それも思いっきり振られて。その相手はイケメンどころかフツーの子。女子達は陰キャに振られたって噂しまくってたわよ」

その言葉にカチンときた!

手にしていたジョッキをドン!と音をたてて置いて、亜香里を睨み付ける。

「佐伯くんは陰キャなんかじゃないもん!フツーの子でもないし!失礼な。佐伯くんは優しいし!カッコいいし!素敵だし.....」

大きな声で反論しながら彼の顔を思い出して顔に熱が昇る。

そう素敵な人なの。 

ドキドキして何だか恥ずかしくなって、頬を両手で押さえながらにやけてしまう。

「はい!はい!分かった、分かった。あんたには素敵な王子様なんでしょうけど、会社の女子達にとってはフツーの陰キャ男子なのよ。」

「フツーの陰キャ男子じゃない!」

「だから他の女子の意見。まあしょうがないでしょ。女子と仕事で必要以上に話すこともなく、前髪長くて目線も合わせないじゃさぁ。そんな男が彼女らも認める高嶺の花の莉緒を振ったとなれば大騒ぎになるでしょ」

「佐伯くんはそんな男なんかじゃない」

そこで『チッ』と亜香里が舌打ちをした。
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