身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
レストランを出て、彼の外国産のスポーツカーで都内を走った。ひと言も言葉を交わさずにいたが、緊張して会話どころではない私にはちょうどよかったかもしれない。まるで今心の準備をするための時間を作られている気分になり、その通りに私と彼が絡まる想像してみる。しかし想像ではとても追いつかないほどに、きっとすごいのだろう。
実は私にはほとんど経験がない。花純の護衛として近付いてくる男性を追い払っていたら、気づけばこんなに時が過ぎていた。かろうじてシーナ製紙に入ってから一度だけお付き合いをした人と一晩過ごしたことはあったが、最中に「花純」と呼ばれてしまい、気まずく中途半端なまま終わった苦い過去がある。今夜はそんなことは言っていられない。
車でしばらく走ると、都心とは思えない広い敷地にどっしりと佇む五階建てのレジデンスが現れた。
「ここだ」
「は、はい」
広くとも物が多い我が家とは違いハイセンスですっきりとした空間に緊張しながら、彼のうしろへ付いてエントランスへ入る。オレンジの光がぼうっと灯るロビーから暖かな空気に変わり、顔に熱がこもった。