身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
「花純」
切なく名前を呼び捨てられたが、それは私ではない人の名前だった。胸が鳴ることはないが、代わりになぜかズキンと痛む。
私が花純ではないと知ったら、彼はどうなってしまうのだろう。
彼の形のよい唇が私の唇と擦れ、ぴたりと合わさった。艶かしい感触と熱を感じ、それだけで体がじんと反応する。
「ん……」
絡め取られるキス、服の中を探られる手に、私は演技をしている余裕はまったくなくなった。
「貴仁さんっ……あ」
首筋を吸われて声が漏れる。変な声ではないかと手で押さえるが、彼は耳もとで「もっと聞かせてくれ」と訴えかける。
貴仁さんのしたいように、とお願いしたはずが、彼は恐怖を感じさせない手つきで私の全身を愛撫する。どんなことを求められても耐えてみせる、それが花純の代わりで納得してもらえる理由になるのではと思っていた。任務が完了できないと焦る反面、覚悟していた恐怖が安心に変わり感動している自分がいる。初めての夜が大切に抱かれる思い出になってしまった。本来は貴仁さんは花純に捧げるつもりの夜だったのに、それをこんな形で、私が……。