身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
疲れ果て、放心状態のまましばらく時間が過ぎていった。まだ動けそうにないが、泊めてもらう予定にはなっていないためデジタル時計を確認する。この部屋に来てからは抱かれる以外のことはしていないため、まだ夜九時半を回ったところだった。
貴仁さんはソファから起き上がれない私にいつのまにか肌触りのよいブランケットを掛け、自分は別の位置に座り直して足を組んでいた。終えてからも甘い言葉が続くかと思っていたが、なにも言わず着衣を整えている。
「……あの、貴仁さん」
すべてを終えてからなんて卑怯だが、本当のことを言わなくては。なかなか言葉が出てこない。最初から決めていたのに落胆されるのが怖くなっている。
「その……」
まるで彼は私の言葉が聞こえていないかのようにこちらを向いてくれず、抱いている最中とのギャップにさらに恐怖が増していく。どうしたんだろう。私、なにか気に障ることをしただろうか。もしかして、行為中は花純の真似ができなかったから、イメージと違ったとか。
「とても素敵な夜でした。夢みたいでしたわ」
ブランケットで体を隠しながら起き上がり、今一度、頬を緩め花純のようにふわりと微笑んだ。彼はゆっくりと私を見る。しかしその顔はこれまで見たことがないほど鋭く、敵意に満ちたもので背筋が凍る。
「〝私でごめんなさい〟と言ったな。あれはどういう意味だ」
「……え」
「お前、本当に椎名花純か?」