身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
妹の香波はいつでも媚びた態度で、俺の機嫌をうかがってばかりでつまらなく、まさに俺を前になにも言えない会社の人間や名声だけにすり寄ってくる女たちと変わらない。
花純の代わりになどなりはしない、そう思ったが、さすが瓜二つと噂される双子というべきか、性格が違ってもたまに見せるふいの表情には似通った部分があった。
とくに、花純のふりをした彼女を抱いたときも、あのエレベーターでの抱擁を思い起こさせる温もりを感じた。切なく漏らす声はそれまでの媚びた声ではなく、やっと本当の彼女に手が届いたと思ったのだ。後からすべて偽物だったとわかってもそう簡単には消えず、抱いた感触が手に残っている。
俺に詰められて香波が声を上げて泣いたとき、妙に引っ掛かった。俺を騙した許せない女なのに、香波のことが手放し難いと感じる瞬間がある。
ほとんど勢いで香波と婚約をした中で、ほんの一瞬だけ花純と再会する機会があった。
『お世話になっております。姉の花純でございます。これからもどうぞよろしくお願いします』
顔合わせの料亭に現れた彼女は妖精のようにスカートを揺らし、微笑んで礼をした。どちらも独身のまま会うのはこれが最後になると思い、その姿を目に焼き付ける。
しかしなぜか不思議なほどに惹かれなかった。あんなにも恋い焦がれていたのに今はなにも感じない。あのときの感情を忘れてなどいない。ずっと花純に会いたかったはずだ。しかし、まるで心が揺れなかった。