グリフォンの恋人・序章・エピソード0
眠る時は、
父と母は私を抱きしめ、
キスをして、「おやすみなさい」を言ってくれた。

その幸福な時代も、終わりを告げた。

祖父、ジャン・エバンズ・カルートが隣国で病気になり、
その看病に行った母も、病気になった。

伝染病に感染したのだ。

私と父が、駆けつけた時は、
すでに二人とも、墓地に埋葬された後だった。

その父も、数年後、病に倒れた。

私の手を握りしめて、
母の名前を呼んで、息をひきとった。

私を母と間違えたのか・・・

父の魂は、女神である母に抱かれ、天空に登ったのだろう。

穏やかに、かすかに微笑んでいるような死に顔だった。

父の手元に、いつも置かれていた聖典。
その余白に書きこまれていた、
母への想い。

私の元に舞い降りた
はちみつ色の髪の女神

大地に、黄金の豊穣をもたらし
みつばちたちに、満開の花を与える

それは甘く、かぐわしい。
それは奇跡としか言いようがない。

私はたった一人、取り残された。

序章 おわり
本章に話は続きます。
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