銀色ネコの憂鬱
『あ、スミレちゃん?昨日はごめんね!』
(ん?“スミレちゃん”?…てことは)
「一澤さん?」
明石や他の社員が菫の方を見た。
『スミレちゃん、忘れ物してるよ。取りに来てよ。』
「え?忘れ物…?」
アトリエでは鞄から中身を出した記憶がない。
『今から来てくんない?』
「今から…ですか?」
『すぐ来てくれないと捨てちゃうかも。』
忘れ物が何なのかわからないが、捨てられてしまうのは困る気がする。
菫はホワイトボードに書かれた自分の予定を横目で確認した。
(午前中は動かせる予定だけ…)
「わかりました、今から伺います。」
そう言って電話を切った。
「……“スミレちゃん”とか聞こえた気がするけど…?」
明石が怪訝(けげん)そうな顔で聞いた。
「一澤 蓮司の契約、揉めてるなら俺が行こうか?」
明石が言った。
「え!?いえ、大丈夫です!」
(そもそもまともに契約の話ができてないし…)
これは挽回のチャンスかもしれないと思った。
「行ってきます!」
菫は急いで会社を出た。
(でも、忘れ物って…?)
何度考えても心当たりが全くない。
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