銀色ネコの憂鬱
「…元々は、私もデザイナー志望だったんですけど、いろいろあって営業になりました。」
「いろいろ?」
「そんなに大した話じゃないですよ。ミモザの前の会社も同じ文房具の会社だったんですけど、そこは新卒社員は全員まずは一年間営業をするっていうルールだったんです…」
「へぇ」
「そこで明石さん…今の社長が私の教育係だったんですけど、“営業に向いてる”って言ってくれて。」
「………」
「その頃は香魚(あゆ)さんも同じ会社にいたんですけど…」
「あぁ、アユさん…」
蓮司は先日のあんぱんを思い出した。
「香魚さんが目の前でサラサラってデザインしたり、完璧なプレゼンしたりするの見てたら…私は自分でデザインするより、こういう人の商品をもっともっといろんな人に知ってもらう仕事の方がやりたいんじゃないかな…って思ったんです。」
菫が当時を思い出しながら言った。
「私、デザインの勉強はしたけど衝動的に「描きたい」とか「創りたい」って気持ちにはならないんですよね。」
「そうなんだ、俺なんて衝動しかないけど。」
蓮司が迷いなく筆を動かしながら言う。
「…でしょうね。」
菫は苦笑いした。
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