銀色ネコの憂鬱
「へぇ、もう形になってるんだ。おもしろい。このロゴいい感じじゃん。」
「これは営業がお店で商談するのに使うんです。カタログだけだと伝わらないところもあって。」
「営業モードのときはそういう顔になるんだ。」
蓮司が菫の顔を見て言った。菫は不意に言われた言葉に顔が赤くなった。
「そういうこと言わないでください。」

「レターセットとか、自分じゃ買わないからどれも同じって思ってたけど、自分の絵がレターセットになるとおもしろいもんだね。」
蓮司がサンプルを見ながら言った。
「え!何言ってるんですか!?全然違いますよ!」
急に菫の声色に熱がこもる。
「同じピンクの花柄のレターセットでも、ピンクの色だって違うし、花の種類も柄のレイアウトもちょっとしたことで全然違うし、封筒と便箋の組み合わせとか、紙の書き味とか…とにかく、エンドユーザーってそういうのを全部吟味して400円、500円を使うんです。とくにレターセットってファンレターとかにも使うので、自分の気持ちを飾る額縁?みたいな…印象が全然変わってくるので、お気に入りのレターセットをリピートする人もいるし…とにかくみんな真剣だから、メーカーも真剣にやらないと見透かされちゃうんです。だから、うちのデザイナーは細かいところまでこだわってデザインしてるんです。」
菫がいつになく流暢(りゅうちょう)に喋るので、蓮司は呆気にとられたあとで笑いだした。
「買いたくなった。」
「バカにしてません?」
「してないって。」
笑う蓮司に、菫は少し不機嫌そうな顔をした。
< 38 / 101 >

この作品をシェア

pagetop