銀色ネコの憂鬱
「…何もされなかった?」
「……うん、さっきあの人が来て、お茶出したところだったから。」
菫の言葉に蓮司は安堵(あんど)した。
「ごめんね、勝手に上げちゃって…。」
蓮司は首を横に振った。
「スミレちゃんは全然悪くないよ。あいつはスミレちゃんが断っても無理矢理上がってきてたよ、きっと。」
「…あいつって……あの人…“サクラ”って…」
触れて良いのか悪いのかわからず、気になったことを中途半端に口に出してしまう。
「気になる?」
蓮司は菫の()を見て聞いた。
「………」
菫はしばらく沈黙した。
「気に…なる…。あの人、個展のことと関係あるでしょ……?」

———ふぅ…

「こんなときばっか勘が鋭くてズルいな。」
蓮司は苦笑いで言った。
「俺のこと嫌いになるかもしれないよ?」
「…ならない…」

「スミレちゃん、サクラの名前はあの人から取ったって思ってるでしょ。」
菫は小さく(うなず)いた。
「それは違う。勘違いだよ。サクラは俺が小学生の時から一緒だったからね。」
「そうなんだ。」
「猫に女の名前つけるのが俺のクセって思ったんでしょ。」
「……ちょっとだけ…。」
蓮司はまた苦笑いした。
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