契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


「……っしゅん! いっ……!」

唇が重なる寸前、くしゃみが出て反射的にうつむく。
勢いよくうつむいた私のおでこと、顔を傾けて近づいていた悠介の頬骨がぶつかるのは当然だった。

ゴッ……と鈍い音を立てて骨がぶつかり、痛むおでこを押さえながら顔を上げた。

「ごめん、頭突きしちゃった……大丈夫?」

私と同様に頬骨を押さえている悠介は、痛みからかわずかに顔をしかめながら「ああ」と返す。
そして、ややしてから不満そうな顔を私に向けた。

「あそこでくしゃみするか? 普通」
「え、だって生理現象だし、それは……っていうか、悠介がなんか真面目な顔して急に近づいてくるから……」

私が腹筋をベタベタ触りすぎたのがきっかけではあった。
でも、悠介が掴んだ両手をすぐに解放してくれたらお互い負傷しなかったはずだ。

だから、どちらかと言えば悠介が悪いと思うのに、彼があまりに堂々としているせいで、こちらがもごもごと言い訳口調になってしまう。

「今、なにしようとしたの?」

じっと見上げて唇を尖らせると、悠介はしれっとした顔で目を逸らし後ろ頭をかいた。

「……別に。おまえが免疫がないだとか言うから少し鍛えてやろうとしただけだ。夫婦の距離感に慣れておいた方がいざってとき役に立つだろ」

それはたしかにその通りだとは思うものの……それだけではない気がしてなんとなく納得できずに見つめていると、悠介は棚からタオルを取り出して私の頭に置いた。

「風邪ひく前に風呂に入れ。その間にルームサービスを頼んでおく」
「あ、うん。ありがとう」


< 67 / 171 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop