もう一度、重なる手

 二宮さんと母とアツくんと私。四人が幸せな生活を送れたのは、母が再婚してから三年ほど。

 二宮さんと結婚して生活の安定を手に入れた母は、だんだんと家事に手を抜くようになり、クリニックの仕事で忙しい二宮さんの目を盗んで別の男の人と浮気した。

 母の不貞を許せなかった二宮さんから離婚の話が出たとき、私は心の底から母を恨んだ。二宮さんとアツくんとの暮らしは、私にとってとても穏やかで幸せなものだったから。この幸せがずっと続いていくのだと思っていたから。

 二宮さんと母の離婚が正式に決まったとき、二宮さんとアツくんは「フミもおいで」と私に言ってくれた。

 二宮さんもアツくんも、家事を放棄したり浮気をするような母のもとに、まだ小学生の私を置いておくことはできないと心配してくれたのだ。

 十歳だった私には、選択肢があった。母ではなく、二宮さんとアツくんと暮らす。それはとても魅力的な選択だった。

 二宮さんとアツくんを選べば、これから一生、幸せな生活が保障されているような気がした。

 だけど……。

 二宮さんとの離婚が決まって落ち込んでいる母のことを見捨てられないという気持ちもあった。

 そのときの母は、浮気相手との関係を断っていた。私が二宮さんのほうに着いて行けば、母はひとりきりになる。

 小さな頃からダメなところばかり見せられてきたが、私にとっての母はひとりしかいない。

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