もう一度、重なる手
「私、お母さんに着いて行くね」
泣きそうな声でそう言うと、アツくんも泣きそうな顔で「そっか」とつぶやいた。
母を選べば、私とアツくんのつながりは切れてしまう。私たちは本当の兄妹ではないから、もう二度と会えないかもしれない。
母を見捨てることはできなかったが、母についていくことは私にとって胸を引き裂かれるような痛みを伴う選択だった。
二十四歳になるまでの私の人生は、それなりに紆余曲折があったけれど、今になって思えば、十歳のときのアツくんとの別れが人生で一番悲しくてつらい経験だったかもしれない。
もう二度と会えないかもしれない。そんな私の予想通り、母と二宮さんが離婚してから、アツくんには一度も会えなかった。
二宮さんの家を出て母と暮らす新しい家が決まってから、わたしはアツくんに手紙を書いた。
でも、アツくんからの返信がきたのは二回だけ。三通目の手紙を出したあとから返事がこなくなって、そのまま音信不通になった。
アツくんからの手紙がこなくなったとき、私はとても落ち込んだ。
三通目の手紙に、わたしは母に新しい彼氏ができたことを書いていた。
もしかしたらそのことが、アツくんを不快にさせたのかもしれない。
アツくんに嫌われたのだと思って、わたしはしばらく毎日のように泣いていた。
でも、十四年ぶりに再会したアツくんは私に対してとても好意的だったし、嫌いな人間を仕事終わりにカフェに誘ったりしないだろう。
私はエレベーターで一階に降りると、オフィスビルの入り口付近にあるカフェに入った。