もう一度、重なる手
「こちらのほうでお母様のケガの状態についてはっきりとお伝えできないので、病院のほうに出向いていただけますか?」
もう一度よく確認すると、電話をかけてきてくれたのは母の住む近所の警察所の人で。今回の事故は状況から判断して母のほうに過失はないことを説明され、母がケガをして運ばれたという病院名を伝えられた。
ケガの状態をはっきりと伝えられないって……。もしかして、母の状態はあまりよくないのだろうか。
警察からの電話を切ったあと母に電話してみたが、留守電に繋がるだけで応答はなかった。
もしかして、電話に出られないような大ケガなんじゃ……。事故のことを、同棲している恋人は知っているのだろうか。
母の今の恋人とは一度だけ顔を合わせたことがあるが、私が彼に関して知っていることと言えば名字が「山本さん」であるということと、母よりいくつか年下であるということだけだ。
もちろん、連絡先なんて知らないから、母の事故について知らせようもない。
とりあえず、私がすぐにでも母が運ばれたという病院に出向くしかないのだろう。
警察の人に教えてもらった病院は、母の家に近く、うちからは電車で小一時間かかる。そこまでの行き先の経路を頭の中で考えながら、同時に思い浮かべたのは翔吾くんのことだった。