もう一度、重なる手
文庫本を持ってベッドのそばに無造作に転がるビーズクッションに座ると、私は少し考えてからアツくんにラインを送った。
〈前に貸して欲しいって言ってた本、読み終わったよ。昼休みか仕事終わりに渡したいからアツくんが都合のいいとき教えてね。〉
送ったメッセージをしばらく眺めてから、スマホの画面をラインからインターネットに切り替える。
暇つぶしに今月の新刊情報や今月の人気ランキングなどを調べて気になる本をチェックしていると、突然知らない番号から電話がかかってきた。
休みの日に、誰だろう。
不思議に思いつつ電話に出ると、スマホの受話口から低い男性の声が聞こえてきた。
「●●警察署の者ですが、後藤史花さんの携帯で間違いないでしょうか」
「え、あ、はい……」
警察という言葉に反応して、全身に緊張が走る。
どうして、警察から電話が……?
ドキドキしながら強くスマホを握りしめると、警察を名乗る相手がゆっくりと話し始めた。
「実は、後藤さんのお母様の梨花さんが交通事故に遭われまして……」
「え?」
びっくりして事情を聞くと、家の近くの道を自転車で走っていた母に曲がり角から突然出てきたバイクが接触したとのことだった。自転車に乗っていた母は転倒してしまい、ケガして病院に運ばれたらしい。
母には同棲している恋人がいるが、その人と籍は入れていない。それで、母の唯一の身内である私に連絡がきたらしかった。