もう一度、重なる手
私からのメッセージに気付いていないのか、翔吾くんに送ってラインはまだ既読にならない。
私はスマホビーズクッションとともにベッドのそばに並べてあるローテーブルに置くと、出かける準備を始めるために寝室に戻った。
翔吾くんの実家に行くためにと思って用意しておいたベージュのワンピースをクローゼットにしまい、普段用のTシャツとマキシ丈スカートを取り出して、のろのろと着替える。頭の中ではできるだけ早く家を出なければと思うのに、なんとなく体が重たかった。
本来なら、母が交通事故に遭ったと知らされたら、一刻も早く病院に飛んでいくのが娘としての勤めなのだろう。
母のケガの状態は気になるが、病院に行くために炎天下のなかを最寄りの駅まで歩き、乗り継ぎも含めて一時間は電車に乗らなければならないことが憂鬱にも感じられる。
こんなことを思うなんて薄情かもしれないけれど、実際のところ私と母はあまり仲の良い親子じゃない。
私が子どもの頃は優しかった記憶があるけれど、実の父が亡くなってからは母の私への興味は薄くなった。
特に新しい恋人ができると、私は母の興味関心の対象から100%外れてしまう。学校行事や週末の約束は何度もすっぽかされたし、その度に悲しい思いや恥ずかしい思いをたくさんしてきた。
母に全く愛されていないとは思わないけれど、母にあまり必要とされていない自覚はあった。そんな母でも、私にとっては唯一の血縁者だ。
だから十四年前の二宮さんと離婚のときも、私は苦渋の決断をして母の手を取ったのに。母のほうは、決して私の手を握り返してくれない。