もう一度、重なる手
二宮さんの家での暮らしでアツくんや二宮さんから家族の温かさを知ってしまったせいか、離婚のあとの母との暮らしにはいつも淋しさや満たされなさが付き纏っていた。
月日が過ぎるにつれて、母の手を選んだ理由がよくわからなくなった。
優しかった二宮さんを裏切って離婚したあとも、交際相手を次々と変えては失敗する母のことを子どもの頃のように純粋に受け入れられなくなった。だから、大学を卒業するときに母の元を離れた。
ひとり暮らしを始めた私に、母はめったに連絡をよこさない。特に私が社会人になってからは、お金に困ったときなど都合のいいときだけ連絡をしてくるようになった。
母が事故でケガをしたと聞かされたというのに心の底から心配できないのは、私の母に対する愛情が年齢を重ねるごとに希薄になっているせいかもしれない。
着替えを済ませたあと、普段よりも簡単なメイクをすると、ベッドのそばにほったらかしてあった小さめのカバンに財布とハンドタオルとティッシュを押し込む。
それから最後にローテーブルに置いておいたスマホを入れようとして、着信とラインの通知が何件かあることに気が付いた。