もう一度、重なる手

◇◇◇

「あ、史ちゃん。おかえりなさい」

 アツくんとのランチタイムを終えてオフィスに戻ると、隣の席に座っている由紀恵さんがパソコンから顔をあげた。

「お疲れさまです。今日は先にお昼をとらせてもらってありがとうございました」

「いいの、いいの。それより、小田くんとは会えた?」

 デスクに座ろうとする私に、由紀恵さんがこそっと囁いてくる。

「え、翔吾くんですか?」

 きょとんと首を傾げると、由紀恵さんが「え、連絡こなかった?」と意外そうにまばたきをした。

「史ちゃんが休憩に出たあと三十分くらいして、小田くんが営業回りのあいさつに来たんだよ。ちょうど同じビルの取引先のところに来たのでごあいさつだけーって」

「そうなんですね。私のところにはなにも……」

「そうなの? 帰り際に史ちゃんのことをなんとなく気にしてるふうだったから、休憩出てるよって教えたんだけどな」

「そう、ですか……」

 由紀恵さんの話が気になってスマホをチェックしてみたけど、翔吾くんからはなんの連絡もきていない。

〈さっき、うちの会社に来てたの?〉

 念のためにラインを入れてみたけど、もちろんすぐに返事はこない。
< 61 / 212 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop