もう一度、重なる手

「フミ? どうしたの?」

 しばらく黙り込んでいると、アツくんが心配そうな声で呼びかけてくる。

「あ、うん。ちょっと、アツくんに話があって……。今、電話大丈夫?」

 ゆっくりと言葉を選びながら話し始めた私に、翔吾くんの鋭い眼差しが突き刺さる。

 私とアツくんとの会話を一言一句聞き漏らすまいとしている翔吾くんの目が怖かった。とぐろを巻いた大蛇に睨まれているような気分だ。

「大丈夫だよ。何かあったの?」

 私の置かれている状況を知らないアツくんが、優しく問い返してくる。

「うん、実はね……。さっき付き合っている人にアツくんのことを話したら、その人がアツくんに会いたいって言ってて……」

「そうなんだ? 俺にそんな話を持ちかけてくるってことは、フミが不安に思ってた結婚のことやお母さんのことをちゃんと彼氏にも話せたんだね」

「え、うん。まあ……」

 煮え切らない返事をすると、アツくんが「よかった、よかった」と笑った。

「フミの彼氏が会いたいって言ってくれてるなら、喜んで都合つけるよ。土曜日は診察があるけど、日曜日なら大丈夫だから」

 何も知らないアツくんが、翔吾くんと会う話を嬉しそうな声で進めてくる。

 ほんとうは翔吾くんには何も話せてないし、今電話をかけているのも翔吾くんに私とアツくんの関係が疑われているからなのに。

 アツくんが純粋に翔吾くんに会うことを楽しみにしてくれているのだと思うと、アツくんのことを騙しているようで。心苦しくて仕方ない。

 でも、翔吾くんに会話を聞かれている手前、ヘタなことも言えない。
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