もう一度、重なる手
「どうして?」
「俺の前で連絡とってよ。その、お兄さんの《アツくん》に」
「なんで急に……」
「だって、史花の大事な家族なんだろ。史花にとって大切な人なら、俺も挨拶しとかなきゃ」
「挨拶……?」
「そう。俺にやましいことがないなら、電話できるだろ。史花のお母さんの前に、まずは《アツくん》を紹介してよ」
「今すぐに?」
「今すぐに。できないの?」
私に視線を戻した翔吾くんが、少しも笑っていない目をわずかに細める。
「できるよ」
抵抗しても余計に疑われるだけだ。
私はスマホを手に取ると、翔吾くんの望む通り、彼の前でアツくんに電話をかける。
受話口から聞こえてくるコール音を、一回、二回と数えながら、アツくんが出なければいいと思った。
五回目、六回目のコール音が聞き流し、次のコール音が鳴り終わっても出なかったら切ろうと思っていると、急に通話に切り替わった。
「もしもし、フミ?」
電話だと、直接会っているときよりも少し低めに聞こえるアツくんの声。
私からかけたくせに勝手だけど、今は出てほしくなかったな……。