もう一度、重なる手
4.予兆

 翔吾くんをアツくんに紹介することになったのは、電話をしてから二週間後の日曜日だった。

 待ち合わせの場所と時間は、都内のホテルのロビーラウンジに15時で。週末の昼間はアフタヌーンティーに訪れる女性客で混み合うというラウンジの席を、アツくんが事前に予約してくれた。

 最初は別の場所でランチをする予定だったのだが、約束の三日前に母から「日曜日の朝に来てほしい」と呼び出されて、急遽予定を変更してもらったのだ。

 バイクとの接触事故から二週間以上が過ぎてケガは順調に回復しているはずなのだが、母は週末が近づくと、「あれがない」「これができない」と私に連絡を寄越してくる。

 日曜日の午前中。待ち合わせの前に母の家に顔を出した私は、山本さんに関する愚痴を散々に聞かされた。

 母の話によると、事故の後から同棲している恋人の山本さんの仕事が急に忙しくなり、帰宅時間が遅くなったり、週末に出張が入るようになったそうだ。

 だから、私がもっと母を手伝いに来ないと家事が回らなくて困るらしい。

 実際に、一週間前の土曜日に掃除したはずの母の家には衣類やゴミが散らかって、キッチンのシンクには数日分の洗い物が溜まっていた。

 だが、脱ぎ散らかされた衣類は母のものばかり。シンクに置かれた食器類も毎回一と組しか使われた気配がなく、一緒に住んでいるはずの山本さんの影がまるで感じられない。
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