もう一度、重なる手
「もしかして今週、山本さん、一度も帰ってきてない?」
「帰ってきたわよ。月曜日は。でも、週末まで出張があるとかで、大きめの荷物を持って出かけて行ったのよ」
「そう……」
家の中に落ちた衣類を拾い、洗い物を片付けながら、私はなんとなく嫌な感じがした。
これまでの経験からすると、同棲していた母の恋人が仕事の忙しさを理由に家に寄り付かなくなるときはたいてい……。
「あ、そうだ。史花。廊下の電球がひとつ切れてるの。月曜日に彼に話したんだけど、取り替えずにそのまま出かけちゃって……。この手では難しいから、替えといてくれない?」
食卓の椅子にだらしなくもたれて座った母が、スマホを触りながら私に声をかけてくる。
化粧をしていないときの母の顔は、ここ数年でかなり老けたように見える。若いときの母はそれなりに綺麗だったからすぐに恋人だってできたのだろうけど、もしこの先山本さんと別れたらどうするつもりなのだろう。
何年も恋人に頼って、続かないアルバイトを転々としてきた母が、ひとりで生活をしていけるとは到底思えない。
もし山本さんに捨てられたら……。母は私に縋ってくるようになるのだろうか。
考えたら憂鬱になるし、そんなこと考えたくもない。
どうか、今日母の家の現状を見て感じた予感が杞憂であるように。そう願いながら、部屋の片付けを済ませて廊下の電球を替える。