もう一度、重なる手
たしかにショートケーキもモンブランも好きだけど、でも……。
コーヒーしか頼むつもりのない翔吾くんは、それを飲んだら私を連れてこの場を退席したいのかもしれない。
私の彼氏を紹介されて喜んでいるアツくんと違って、翔吾くんは別に本気でアツくんと親しくなりたいと思っているわけじゃないだろうから。
ちらっと横目に窺うけれど、翔吾くんは私の視線に気付かない。困っていると、アツくんがメニューから顔をあげてにこっと笑いかけてきた。
「あ、もしショートケーキとモンブランで悩んでるなら、ひとつずつ頼んで半分こしたら? 俺とじゃなんだから、小田くんと」
「あ、うん。だけど……」
翔吾くんはたぶん、ケーキは食べない。
アツくんと翔吾くんのどちらに合わせるべきかわからなくて困っていると、それまで黙って話を聞いていた翔吾くんが動いた。
「いいよ。じゃあ、俺と史花でショートケーキとモンブランひとつずつ頼もう。なんなら、史花がふたつとも食べてくれてもいいし」
テーブルの上で、アツくんの手からメニューをすっと抜き取った翔吾くんが、怖いくらいににこやかに笑いかけてくる。
「あ、うん。じゃあ、それで……」
翔吾くんに少し引き攣った笑みを返しながら、私はなんとなく不穏な空気を感じる。