もう一度、重なる手
ケーキと飲み物を頼んだあと、私たちの会話を盛り上げようと気遣ってくれたのはほとんどアツくんだった。
「そっか。小田くん、フミの働いてる会社の営業担当なんだ」
「はい」
翔吾くんはアツくんからの質問に笑顔で丁寧に答えていたけれど、どことなくアツくんを拒絶するような気配もあって。途中で運ばれてきたケーキを食べながらふたりの会話を聞いていた私は、ヒヤヒヤとして気が気ではなかった。
アツくんが翔吾くんに対して不快なことを言うとは思わなかったけれど、逆のパターンはある気がしたから。
頼んだケーキは美味しかったけれど、落ち着いて味わえなかったおかげで、アイスカフェオレと共に喉に流し込んだクリームの甘さが胃の中にもったりと溜まっていった。
「そろそろ出る?」
二時間ほど大して中身のない話したところで、アツくんが腕時計に視線を向ける。
すっかりケーキに胃もたれしかけていた私は、アツくんからの提案に心底ほっとした。ついでに緊張が緩んで、なんだか急にトイレに行きたくなった。
「出る前に、ちょっとトイレに行ってきていい?」
「ああ、うん。いいよ」
アツくんと翔吾くんにひとこと言ってから、カバンを持って立ち上がる。