もう一度、重なる手

 アツくんと翔吾くんをふたりだけにするのは心配だから、なるべく早く戻ってこなきゃ。

 早足でトイレに向かおうとした、そのとき。気が急いていたためか、アツくんが座っていた側のソファー席の脚に靴の先が引っかかって躓いた。

「フミ?!」
「史花?!」

 アツくんと翔吾くんの焦ったような声が聞こえて、ぐらりと前に揺れた身体が誰かの腕に受け止められる。

 ハッと気付くと、私の身体の胸の辺りをアツくんが腕で受け止めてくれていて。思わぬハプニングに少し焦った。

 ど、どうしよう。アツくんの腕、あたってる。

「あ、アツくん。ごめん……!」

「大丈夫? 気をつけて」

 真っ赤になって身を引く私に、アツくんが涼しい顔で笑いかけてくる。

 思いきり胸が腕にあたったはずなのに、アツくんはなんとも思っていないみたいだった。

 アツくんにとって私は妹みたいなものだから。たまたまあたった場所が胸のあたりだったとしても、気にならないのかな。

 意識してる私が自意識過剰なのかもしれないけど、小学生のときからすると成長した胸の膨らみを、アツくんにスルーされたのもちょっと悲しい。

 でも、妹ってそういうことで。私は女の人としてはアツくんに認識されてないんだよね。

 そんなこと初めからわかっていたはずで。翔吾くんにアツくんを会わせたのだって、私がただの妹としか思われていないことを翔吾くんにわかってもらうためだったのに。  
  
 アツくんに女性として意識すらされていないことがちょっとショックなんて……。矛盾してる。
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