この胸が痛むのは
祖母から許されて、シュトウブさんはほっとしたように気弱な笑顔になりました。


「そうですか、そうですか。
 ヴァンパイアの花嫁には、後5年必要です」

「だから、貴方は!」

ベイシス夫人に叱られて、頭をかかれたシュトウブさんに皆が笑って。
私も一緒に笑いながら。
『ヴァンパイアでさえ、今の私なら選んでくれないのだ』と思っていました。


トルラキアの王都グラニドゥに入ると、あちらこちらで厳しいお顔の男性の肖像画を見かけるようになりました。
こちらに来てから手にしたトルラキアの紙幣にも印刷されているその男性が、ヴァンパイア王の
グラニドゥ・イシュトヴァーン・ヴラゴ英雄王
なのだと、もう私は知っていました。


あれから図書室にストロノーヴァ先生を訪ねて、夏休みに祖母とトルラキアへ旅行に行くと告げると、先生はトルラキアについて書かれた本をどこかから持って来られて、この肖像画を見せてくれたのです。

「王都へ行くと、この王の肖像画があらゆる所に
飾られているからね。
 恐ろしい顔だろ? 今から慣れておいてね」

「兄からはヴァンパイアに襲われたら使えと、
変な水を貰いました」

「あー、聖水かな?
 プレストン・スローンだったよね?
 凄く面白いレポートを書くからと、中等部の
先生に見せて貰ったことがあるんだ。
 彼、わざわざ教会で祝福を受けに行ってくれてたの?」
< 143 / 722 >

この作品をシェア

pagetop