この胸が痛むのは
自分でもわかっていた、膝と手が震えた。
それでも、アグネスの邸から退場するまでは、
不敬な男を演じ続けた。


曾祖父はこの国では恐れられていた。
ノイエも恐れていたが、心底怖い思いはしたことがなかった。
単に本家の当主、ストロノーヴァ公爵閣下だったから、その持てる権力にひれ伏しただけだ。
それに、ストロノーヴァは王族ではない。


ノイエは生まれて初めて、王族を間近に見て。
王族であることと、王族に近いこと、その2つには大きな違いがあるのだと知ったのだ。


『この人を本気で怒らせたら、俺は簡単に消される。
 そして、それを曾祖父は止められない』


それは推察だったが、紛れもない事実。
あの場にアグネスと、彼女の祖母がいなかったら、俺は……
帰りの馬車でノイエは、天井に顔を向けて目を瞑った。



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